理学部・理学系研究科の卒業生、教員からのメッセージ
※所属、肩書は掲載時のものです
真行寺 千佳子
東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 准教授
1952年東京生まれ。東京大学理学部生物学科を卒業後、1978年に同大学大学院理学系研究科修士課程動物学専攻を修了。1978年12月に同大学大学院理学系研究科博士課程を1年途中で退学。1979年1月より東京大学理学部生物学科(動物学教室)助手。1992年東京大学より博士(理学)の学位(論文博士)を授与。1995年より東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻助教授、2007年より同准教授(名称変更)。1999年4月−2000年3月東京大学総長補佐。2002年日本動物学会賞、第22回猿橋賞(女性科学者に明るい未来をの会)受賞。専門は、細胞生物学、細胞生理学。
小学校4年生までは、取り立てて言うほどの科学少女ではなかったが、5年生で、江東区の科学教育センターの実験教育プログラムに小学校を代表して参加した時に、理系に向いていることを再認識した。そして、外科医だった父から生理学の魅力と重要性を説かれ、将来は生理学者になろうと考えるようになった。理系志望であったにもかかわらず、中学受験では第1志望だった桜陰を選ばずに、苦労を覚悟の上で、雙葉に入学した。私は岐路に立った時、「苦労がより多いと予想される方の道を選択する」。「直感」を重んじ、「過去の決定や周囲の情報に縛られない」。中高の6年間は、その後に影響を与える貴重な経験の連続であった。中でも中学1年の時、シスター・セシリア(高嶺信子校長先生)が常に考える言葉として示して下さった「克己」の精神は、科学者そして指導者となってからも私の支えとなっている。大学受験では1年浪人し、日本医大と迷った末に、理科II類へ進んだ。大学院では、念願の動物生理学の研究室に入った。当時は女子学生がとても少なかったが、リベラルな研究室であったので、伸び伸びと研究生活をスタートでき、感謝している。博士課程1年の途中で助手に採用され、博士の学位は39歳で取得した。博士課程在学中に結婚したが、後に離婚、子供はいない。助手生活17年の後、助教授として独立し、以後現在まで研究室を一人で取り仕切っている。
中心となる研究テーマは、ダイニン分子の機能制御と鞭毛運動の制御の機構解明である。生命の本質とも言える「動く」とはどういうことか?に答えることを目指して、動くタンパク質である「ダイニン」分子の機能とその制御を、ウニ精子の鞭毛に独自の生理学的手法を用いて解析している。これまでに、関連学会の副会長、理事,評議員などを務めた。第26代蓮實重彦東京大学総長の時に、女性初の総長補佐となり、それ以後数年にわたり大学運営に関わり、男女共同参画の問題にも様々な形で取り組んだ。また、2002-2007年には、文部科学省等の審議会等の委員も務めた。2010年からは、アルツハイマーの症状が進行した母の介護に追われながら、日々忙しい生活を送っている。男女共同参画の活動は、これまで出産・育児支援などにおいて成果を上げてきているが、今後は、介護が大きな課題の一つとなると感じている。
理学系女子学生・院生へのメッセージ
女性が研究者として自立することは、ようやく受け入れられるようになってきたでしょうか。この30年間に、女性の社会的活動や社会参画の姿勢に対する評価が、大きく変化したと感じます。制度もその変化の促進に貢献していますが、社会の認識をより高めるために何よりも大切なのは、一人一人が自信を失わずに、情熱をもち続けて歩みを止めないことです。声は小さくても主張すべきことを主張することが必要です。