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研究科長からのご挨拶

理学系研究科長・理学部長からのご挨拶

研究科長 大越慎一

理学系研究科長・理学部長
大越慎一

東京大学大学院理学系研究科・理学部の歴史は明治10年(1877年)から始まります。現在、理学部は10学科(数学科、情報科学科、物理学科、天文学科、地球惑星物理学科、地球惑星環境学科、化学科、生物化学科、生物学科、生物情報科学科)と理学系研究科は5つの専攻(物理学専攻、天文学専攻、地球惑星科学専攻、化学専攻、生物科学専攻)から構成されています。

理学系研究科・理学部の研究領域は、素粒子、原子、分子というミクロなサイズから、細胞、生物とマクロなサイズを経て、地球の内部から極地、そして太陽系、銀河、宇宙の果てまでを対象としています。また、ビッグバンから始まる宇宙創成から過去、現代、未来に至る長い時間軸を対象としています。人は皆、自然界における未解明な謎に心を惹かれ、それを知りたいと望みます。その答えを追い続けているのが理学系研究科・理学部の研究です。そこで見出された発見や科学技術は、時として産業界に貢献することもあるでしょうし、人々の暮らしにも役立つことに繋がることもあります。理学的な研究は、創薬、マテリアル、AI、Beyond 5G、そして量子技術といった先端分野の礎に繋がる可能性も秘めており、実際に多くの特許や知的財産を生みだしてきております。例えば、1901年に東京帝国大学理科大学化学科教授に就任した池田菊苗教授(1864–1936)は物理化学の基礎的な研究を行った一方で、1907年に、現在「味の素」などの商品名で一般家庭に広く普及しているうま味調味料の主成分であるL-グルタミン酸ナトリウムを見出しました。池田菊苗教授は「日本の十大発明家」の一人として現在位置づけられています。池田教授が退官時に使用していた教授室は現在も使用されております。また、CO2濃度の上昇に伴う気温上昇により、地球の環境は人類の未来を脅かしています。そのような地球規模の危機に際しても、理学系研究科・理学部の研究は最も力を発揮していると思います。事実、CO2による気候変動を予想したのは、2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎先生です。我々人類がより良く地球を管理するためには、地球規模の多くの課題を解決する必要があります。これらの課題を解決するためには、理学的な研究が必須であると考えています。本年度は東京大学アタカマ天文台(TAO)の望遠鏡がいよいよ本格的な稼働を始めます。天文学において新たな発見がもたらされるでしょう。

好奇心と鋭い洞察力にもとづく何事にも左右されない人の直感は、物事の本質を突くことができると信じています。森羅万象の理を解き明かすとともに、将来の地球規模の課題を解決するのは、今まさしく勉学・研究に励んでいる大学生・大学院生です。個々の研究分野の高い専門性を身につけ、その上で、その高い専門性を持った学生が他の専門分野の学生と交流することで“気づき”を得ることが大切だと思っています。そのために、異分野間交流、国際交流、産学間交流を強力に推進します。研究者・学生に“気づき”の場を与える、ということが私の研究科長としての使命であると考えています。例えば、国際的頭脳循環といった観点から、数多くの海外派遣・受け入れプログラムや東京大学共同研究指導型博士課程ダブル・ディグリー・プログラム(東大DD)などを用意しています。これらは全て“気づき”を与える場を提供することが目的です。また、“男女共同参画”などの様々な感性の交流が実現するダイバーシティーを強力に推進していきたいと考えています。

東京大学大学院理学系研究科・理学部憲章にも掲げているように、理学系研究科・理学部は、次代を担う若者に理学の理念と方法論を教授し、未知の問題に対する解決の知恵と手段を体得し人類社会の持続的・平和的発展に貢献する人材を育成し、教育・研究成果を広く社会に発信公開すると共に、それらが人類の平和と地球の環境を損なうことのないよう努め、文化の蓄積と悠久の人類生存に貢献します。