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理学部ニュース

強光子場分子科学

山内 薫(アト秒レーザー科学 研究機構 特任教授)

山内 薫(編著)
「強光子場分子科学」

朝倉書店(2022年)
ISBN 978-4-254-14108-5

我々の身の回りのさまざまな色彩は物質の光の吸収に伴うものである。二酸化炭素分子は,赤外光を吸収したり放出したりする過程を通じて大気の温度を決定づけている。一方,我々にとってこのありふれた光は,その強度が高くなると,さまざまな特異な現象を誘起する。強い光の場(強光子場)においては,原子や分子のポテンシャルが歪み,トンネル効果によって電子が放出するトンネルイオン化が起きたり,原子や分子が光の場と強く結合したドレスト状態が形成されたりする。強光子場を適切にデザインすれば,光によって分子内の特定の化学結合の切断を誘起することも可能となる。また,イオン化過程に伴って,高次高調波の発生(元々の光の光子エネルギーの何倍ものエネルギーを持つ光子の生成)が誘起され,その結果として,アト秒領域(1アト秒は10-18 秒)の光パルスの生成が可能となり,アト秒パルスを用いたアト秒科学の領域が広がることとなった。さらに,電子が光電場の中で散乱される際に光子のエネルギーの整数倍のエネルギーを光の場から得たり失ったりする現象の観測と応用,超高分解能分光学の開発,極端紫外域の微細レーザー加工技術の発展などの新しい展開が次々と生まれている。本書では,物理学,化学,レーザー工学にまたがる学際的で魅力的な分野として発展している「強光子場分子科学」の基礎とその研究フロンティアが平易な文章とともにまとめられている。私の研究室(化学専攻・量子フロンティア研究室)では,この強光子場分子科学分野の研究を理論と実験の両面から推進している。

 

理学部ニュース2023年7月号掲載

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