理学における多様性拡大のために
河野 孝太郎(男女共同参画委員長/天文学専攻 教授)
東京大学は, キャンパスにおける多様性の拡大に向け強い決意を内外に示している。 新たに着任された藤井総長も, 先頃発表されたUTokyo Compass [1] の中で, さまざまな背景を有する多様な出自の構成員が相互の交流・対話によって視野を広げ, 新たな価値の創出につなげることの重要性を明確に打ち出し, その実現のための諸計画の中で, 学生における女性比率30%および教員における女性比率25%以上を目指すとしている。 こうした状況も踏まえつつ, 理学部・理学系研究科における多様性拡大, 特に男女共同参画の取り組みについて, 3回の小連載を組ませていただくことになった。第1回は男女共同参画室における活動を室長の河野が紹介する。第2回は横山広美先生(カブリ数物連携宇宙研究機構)に, また第3回は佐々田槙子先生(数理科学研究科)に, それぞれご寄稿いただき, 理学と多様性について皆様と共に議論を深める機会にできればと考えている。
質問「女性が少ないために, やりづらいと感じることはありますか?」に対する女子学生からの回答結果。数値は回答数。 |
理学部男女共同参画室における主な活動は以下の4項目である。(1) 理学に興味を持ち, 理学部に進む女子学生を増やしていくための進学促進活動。在校生・卒業生の声を届け, ロールモデルを提示する取り組みも含まれる。(2) 理学部・理学系研究科の女子学生や女性教員のつながりを支援する女子学生懇談会の開催。(3) 全構成員のための育児支援室および休養室の設置・運用。(4) 全構成員の意識調査および啓発のための活動。
(1) については, 夏のオープンキャンパスに合わせて実施される女子中高生のための質問コーナー, および進学促進イベント「理学部で考える女子中高生の未来」を継続的に実施している。いずれも参加者からは大変よい反応を得ており, 一人でも多くの生徒さんが理学部を目指していただけるようにと願っている。今年度実施したイベントの様子については, 理学部ニュース9月号の記事 [2] に加え, 東京大学男女共同参画室のページに掲載されている詳しい紹介記事 [3] を, ぜひご覧いただきたい。 (4) については, 学部・大学院学生および教員に対して, 4年に一度アンケート調査を実施している。その結果の一例を図1に示す。今年実施したアンケートでは回答率が1割程度であることを踏まえる必要はあるが, 一定数の女子学生が何らかの形で居心地の悪さを感じていることは確かであろう。また, 女子学生からは, 「東大全体で女性が少ないことが当たり前になりすぎて, これが特殊な状況だということに気づかない人が多い」「優秀さに性別は関係ないはず,ではなぜ現状の女子学生比率になっているのか, 理解している人が少ない」「キャリアを優先する働き方, 家庭を大事にしながらゆっくりキャリアを積み上げる働き方, 多様な活躍ができる社会であって欲しい」 など, 極めて重要かつ耳の痛い指摘をいただいている。
こうした状況の改善に向け, 教授会構成員に対する働きかけも重要である。昨年度は, 松木則夫大学執行役・副学長(当時)によるFDの中で, 無意識バイアスがいかに入り込みやすいか, 米国における大学(理学部)での事例(同じ内容で名前だけ変えた応募書類の評価比較 [4] )なども挙げつつ, 改めて強い注意喚起があった。また, 全学の男女共同参画委員会で実施された管理者層向け意識啓発セミナーの資料や工学系研究科が作成された問題集 [5] なども共有させていただいている。理学部諮問会では, より大胆な取り組みを促すご指摘 [6] もいただいているが, こうした地道な努力も積み重ねつつ, 改善の道を探りたい。
[1] https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0508_00110.html
[2] https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/page/7535/
[3] https://www.u-tokyo.ac.jp/kyodo-sankaku/ja/campusvoice/2021_02.html
[4] C. A. Moss-Racusin et al. PNAS, 109, 16474-16479 (2012)
[5] https://www.u-tokyo.ac.jp/kyodo-sankaku/ja/resources/links/2021_pi.html
[6] https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/page/7348/
理学部ニュース2021年11月号掲載