遠方宇宙で巨大銀河の進化を促す超大質量ブラックホール
柏川 伸成(天文学専攻 教授)
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST)による観測の結果,
129億年前の宇宙に存在する活動的な超大質量ブラックホールを育む銀河が,
数億年前に星形成活動を急速に止め,
成熟した銀河に成長しつつある段階にあることが明らかになった。
これは, 中心ブラックホールが成長する段階で周囲に放つ強い放射によって,
親銀河の星形成活動を停止させた可能性を示唆している。
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夜空に輝く星々の中には今生まれたばかりの星もあるだろう。銀河はいつもどこかで星を産みだしその明るさを保ち続けている。一方,ほぼすべての銀河の中心には太陽の10万倍から数100億倍の重さを持ちながら,その大きさは銀河より10 桁も小さい超大質量ブラックホールが存在する。物質が落ち込む際のエネルギー放射によって明るく輝くブラックホールは「クェーサー」と呼ばれ,遠方宇宙の重要な観測対象になっている。親となる銀河と中心ブラックホールは,その大きさが全く異なるにもかかわらず,その質量の間には強い相関があることが知られている。これは,両者が長い宇宙の歴史の中で互いに影響を与えながら成長してきたと考えられるが,この関係がいつ始まり,そしてどうしてこのような相関をもっているのかはわかっていない。
遠方宇宙で初めてクェーサーの親銀河の検出に成功していたわたしたちの研究グループは,現在最高感度を誇るJWSTを用いて129億光年先に存在する2つのクェーサーを観測した。すると,その親銀河のスペクトル中に通常は見られない中性水素の吸収線を検出した。これは親銀河内に若い星が少なく,観測時点から数億年前に起こした爆発的な星形成後に成長が停止または減速している証拠である。またこのうち1つのクェーサーについては「バルマーブレイク」と呼ばれる,銀河が比較的歳をとった星で構成されていることを示す特徴ももっていることがわかった。
星形成を停止させつつある銀河が129億年前の遠方宇宙に発見されたのは驚きである。こうした特徴をもつ銀河は,約80億年前までしか発見されていなかったからだ。JWSTの多波長観測のデータも合わせて解析した結果,両銀河がそれぞれ太陽の600億,400億倍の星質量を持つ巨大銀河であることもわかった。星形成活動を停止させつつある成熟期に向かう巨大銀河の中心で,なお活動を続けるブラックホール。もしかしたらこのブラックホールこそが,その強い放射によって親銀河中のガスを温め,星形成を停止させたのかもしれない。今回の観測で,初期宇宙における両者の共進化の新たな一面が明らかとなった。
本研究成果はM. Onoue et al., Nature Astronomy, 9, 1541(2025)に掲載された。
今回観測したクェーサーの1つJ2236+0032 の母銀河のJWSTスペクトル(水色)と,これに最も適合する銀河モデルスペクトル(濃青 )。 左 側 の 挿 入 図 は 3 µm付近のスペクトル拡大図。中性水素によるバルマー吸収線が明瞭に検出されている。右側の挿入図は検出されたクェーサー母銀河の画像

