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理学部ニュース

~ 大学院生からのメッセージ~
気軽に物理学

 


駒木 彩乃Ayano Komaki
物理学専攻 博士課程1年生
出身地
東京都
出身高校
立教女学院高等学校
出身学部
東京大学理学部物理学科

 

どのように宇宙が形成され,星・惑星系が進化してきたのだろうか,という疑問を持ち理学部物理学科に進学した。五月祭で理学部物理学科はPhysics Lab.という学術展示を毎年行っている。私は4年次に宇宙班に参加した。その年はちょうどEvent Horizon Telescope(EHT:イベントホライズンテレスコープ)で初のブラックホール観測が行われて非常に盛り上がっていたため,宇宙班の展示テーマもブラックホール周りの物理現象に決まった。ブラックホールのような重い天体の周りでは,遠方からの光の進行方向が歪んだ重力場によって曲げられる。その結果,遠くの天体が歪んだ形で観測される重力レンズ効果が起こる。この効果を分かりやすく説明するために,重力レンズシミュレーションを開発することになった。物理学科では計算機の授業が必修だったので,プログラミングの基本は学んだが,シミュレーションとなると経験がないという状況だった。自分たちで重力レンズ効果について調べ,何度もテスト計算するなど試行錯誤を重ねて完成させた。自力で組んだ計算によって実際に観測された現象を再現する,という経験を通して実際に手を動かして理解する重要性を学んだ。また,解きたい方程式さえ分かれば自分のパソコンで簡単に解くことができる便利さに感動した。ここから,シミュレーションによってさまざまな現象を再現したいと考えるようになった。

現在は,星・惑星系形成の研究をしている。惑星系は原始惑星系円盤と呼ばれる星周円盤内部で形成される。これまでに5000個以上もの系外惑星が発見されており,質量や周期に多様性を持つことが明らかになっている。惑星は円盤内部で円盤を構成する物質(ガス・ダスト)を元に形成されるため,円盤進化の理解は惑星形成過程を知る手掛かりとなる。原始惑星系円盤の寿命は観測から数百万年と見積もられているが,大質量星周りほど短くなることが示唆されている。このような多様な円盤進化は惑星系の多様性につながると考えられるが,その原因となる円盤散逸過程の詳細は明らかになっていなかった。円盤散逸過程として有力視されている光蒸発に着目し,輻射流体計算を用いた光蒸発シミュレーションを中心星質量をパラメータとして初めて遂行した。光蒸発とは中心星からのUVやX線などの高エネルギー放射によって温められた円盤ガスが,中心星の重力ポテンシャルを振り切って円盤から流出する現象である。中心星質量の増加とともに星光度も高くなり,ガスが効率的に加熱されることで質量損失率が高くなることを明らかにした。また,光蒸発による質量損失率の中心星質量依存性は,円盤寿命が大質量星周りで短くなるという観測結果を説明することを示した。最近は円盤進化シミュレーションを自ら作成し,さまざまな環境下に置かれた円盤がいつどのように散逸するかを調べている。  どのように太陽系が形成されたのかを知ることは科学の重要なテーマである。地球を含めた惑星系形成の理解のために博士課程を通してこれからも手を動かしていきたいと思う。計算で再現できる物理現象は身近にあるので皆さんもぜひ気軽に楽しんでほしい。


円盤光蒸発シミュレーションのスナップショット。カラーマップはガス密度,矢印はガス速度を表す。円盤断面を表しており,左下に中心星がある。中心星からの高エネルギー放射によって円盤ガスが加熱され,円盤表面からガスが流出している

 

 

理学部ニュース2023年3月号掲載

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