~ 大学院生からのメッセージ~
磁場の「竜巻」が太陽コロナを加熱する
国吉 秀鷹 |
地球惑星科学専攻 博士課程1年生 |
出身地 沖縄県 |
出身高校 昭和薬科大学附属高校 |
出身学部 東京大学理学部地球惑星物理学科 |
生命が居住可能な条件の重要項目として惑星大気の存在が挙げられる。惑星が大気を維持できるか否かを調べるには,ホストとなる恒星からのX線及び紫外線(XUV)放射を正しく見積もる必要がある。XUV放射は高温な恒星大気,その中でも最外層のコロナから放射されている。コロナの温度は百万度以上であり,これは恒星表面(光球)に比べて数百倍高温である。この事実は一見奇妙である。なぜなら太陽の熱源は中心(コア)で生じている核融合反応であるためコアから離れるほど温度は低くなるはずだからである。したがってコロナ加熱メカニズムの理解が生命居住可能性の研究には必要不可欠である。恒星の中でも私の研究対象である太陽コロナ加熱研究は特に盛んに行われている。これは他の恒星が点としてしか観測できないのに対し,太陽は空間分解した詳細な観測ができる唯一の恒星であるためだ。
太陽大気は電離したガスであるプラズマと呼ばれる状態にあり磁場の影響を強く受ける。光球プラズマはお湯に火をかけた時のような熱対流運動をしていることが観測されている。この対流運動と太陽磁場との相互作用により生じた磁気エネルギーがコロナまで伝播することで加熱に繋がると考えられているが,エネルギー輸送システムの詳細はこれまでよくわかっていなかった。しかし近年観測技術の進歩により光球では対流により生じた小サイズの渦が遍在しており,この渦が駆動する磁気トルネードと呼ばれるエネルギー輸送システムの存在が発見された。磁気トルネードとは,太陽磁場の足元に位置する渦が光球からコロナまでを貫くように磁場をねじることにより,竜巻のようなプラズマ流の発生を伴いながらエネルギーが伝播する現象のことである。磁気トルネード研究の課題として,エネルギーの効率的輸送を可能にする理由がこれまでよくわかっていなかった。そこで私は太陽大気中での磁気トルネード発生をスーパーコンピュータで再現し,観測データのみでは得ることのできない3次元構造を詳細に解析することで上記の仕組みの解明に現在進行形で挑戦している。これまで得られた成果として,磁気トルネードがコロナ到達前までのエネルギー散逸を抑制し,その結果コロナまでの効率的エネルギー輸送を実現することを発見した。ただ解明すべきことはまだまだ山積みである。例えば磁気トルネードが太陽のいたる所で支配的なエネルギー輸送システムであるのか否か,またトルネードがコロナまで運んだ磁気エネルギーを熱に変換する仕組みは何かなど上げればきりがない。
(a) 太陽大気中の磁場分布(© H. Tsujimura)と太陽内部及び大気構造の概略図。コアで生じた熱は放射と対流により光球まで運ばれる。大気中では磁場による加熱が生じ,その結果コロナ温度は光球の数百倍ほど熱くなる
(b) 磁気トルネード発生時の磁力線。足元は光球に根差しており,コロナまでを貫くようにねじれた磁場が形成される
私が太陽物理学を志したのは直感に従った結果である。他の天体現象には感じない美に魅了されて研究を進めていくにつれ,自分の研究の原動力が愛であることに気づいた。損得や常識に捕らわれず愛に導かれるまま研究に没頭している時間は創造的で最も自由を感じる。世界中に同じように太陽愛にあふれた同士がたくさん存在しており,彼らとの協力が研究生活においては欠かせない。国際的な活動の敷居が低いことも分野の魅力だと感じている。