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理学部ニュース

~ 大学院生からのメッセージ~
アルマ望遠鏡で探る原始惑星系円盤の化学

 


大和 義英Yoshihide Yamato
天文学専攻 博士課程1年生
出身地
福井県
出身高校
福井県立藤島高校
出身学部
東京大学理学部天文学科

 

われわれの住むこの地球および太陽系は,宇宙の中でどのように誕⽣したのだろうか。この問いは⼈類の抱く疑問の中で最も根源的なもののひとつであろう。残念ながらわれわれは,歴史をさかのぼって⽣まれたての地球や太陽系を直接探査することはできない。代わりに,天⽂学者はこの問いの答えを夜空に輝く星に求めてきた。太陽に似た恒星の周囲には,恒星の誕⽣に伴ってガスと少量の塵からなる円盤(原始惑星系円盤)が形成される。原始惑星系円盤はまさに惑星の誕⽣の現場であり,その物理構造や化学組成を詳細に調べることで,この宇宙における地球や太陽系の誕⽣過程の解明につながる⼿がかりを得ようとしているのである。

私はとくに原始惑星系円盤における化学に興味を持ち,電波望遠鏡を⽤いた観測的な研究を⾏ってきた。円盤の⾒かけの⼤きさはひじょうに⼩さいため,詳細な観測には⾼い分解能が不可⽋である。また,化学組成の指標となるさまざまな分⼦からの微弱な電波をとらえるには,⾼い感度も⽋かせない。チリのアタカマ砂漠に建設されたアルマ望遠鏡は,66台のアンテナを組み合わせて仮想的な1台の巨⼤な望遠鏡として⽤いることで,⾼分解能と⾼感度の両⽅を同時に達成できる。私のこれまでの研究では,アルマ望遠鏡の⼤規模観測プロジェクトで得られた⾼分解能・⾼感度のデータを⽤いて,5つの円盤内の重⽔素(D)を含む分⼦(N2D+)の分布を詳細に調べた(図)。星間分⼦は宇宙の元素組成⽐に⽐べて重⽔素を含む分⼦に富んでいることが知られており,この現象は重⽔素濃縮と呼ばれる。地球の海⽔などの太陽系の物質でも同様の現象がみられることから,太陽系の物質が星間物質に起源を持つ可能性が議論されている。私は,電波強度が弱いためこれまで詳細な解析が難しかったN2D+分⼦を,円盤ガスの⼒学的運動を利⽤した⼿法を適⽤することにより,4つの円盤で確実に検出しその存在量を定量的に求めることに成功した。その結果,N2D+分⼦は主に円盤外側の低温な領域に存在しており,重⽔素濃縮度(N2D+/N2H+⽐)がひじょうに⾼いことが初めて明らかとなった。これは,円盤内において効率的な重⽔素濃縮が起こっていることの証拠である。すなわち,惑星の誕⽣の現場である原始惑星系円盤は,星間物質から惑星系物質への豊かな化学進化の現場でもあるのだ。


(上段)アルマ望遠鏡で観測した5つの円盤における塵の熱放射の画像。(中段)観測したN2D+ 輝線の強度分布。上段・中段で左下の白い楕円は観測の空間分解能、右下の白線は50天文単位のスケールを表す。(下段)N2D+輝線の円盤動径方向の強度分布。中心付近では放射が弱く、円盤外側で強いことが分かる。Öberg et al., Astrophysical Journal Supplement Series, 257, 1 (2021)および筆者が解析を行った Cataldi et al., Astrophysical Journal Supplement Series, 257, 10(2021)のデータから作成

アルマ望遠鏡は2011年の運⽤開始以来,その⾼い性能によってわれわれに驚くべき観測結果をもたらしてきた。上記の原始惑星系円盤スケールでの観測的な化学研究も,アルマ望遠鏡の⾼い分解能と感度によって初めて可能となった最先端の研究である。私が研究していてもっともわくわくする瞬間は,実際に観測データを⼿にしてそこに重要な観測結果が眠っていることに気づいたときである。この興奮はまさしく,観測データに直接触れた者だけが味わえる,観測研究の醍醐味だと思う。これからも,アルマ望遠鏡や今後建設される次世代の望遠鏡を最⼤限活⽤して,未だ誰も⾒たことのない最先端の地平を切り拓いていきたい。

 

 

理学部ニュース2022年7月号掲載

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