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理学部ニュース

~ 大学院生からのメッセージ~
世界がスケール不変で あったなら?

 


奥山 義隆Yoshitaka Okuyama
物理学専攻 博士課程1年生
出身地
神奈川県
出身高校
開成高等学校
出身学部
東京大学理学部物理学科

 

「人間の身体は分子によってできている。この分子を拡大していくと原子から成っていることがわかる。 その原子も電子や中性子,陽子といったより細かい構造をもつ。」

誰もが物理の教科書でこんな記述を見たことがあるだろう。素粒子理論の標準模型によると,現段階で物質の最小の構成単位はクォークとレプトンという「素粒子」であることがわかっている。自然は一般にこの ような階層構造を持ち,見るスケールによって姿形を変える。

しかし,自然にはスケールに依らない,つまり拡大縮小しても変わらないものも存在する。図aはロマネスコという植物だが,拡大や縮小しても同じ構造が見える。図bはイジング模型という磁石の模型を,臨界温度という特別な温度に置いた時に起こる現象を模式的に表したものである。あらゆる大きさのゆらぎ (モヤモヤ)が見えることから,この現象が典型的なスケールを持ないことがわかる。私はこのようにスケールに依存しない現象を記述する,共形場理論と呼ばれるものを研究している。

スケール不変な世界で基本となる要素は何になるだろうか? 図bをもう一度見てみよう。図bにあるゆらぎは,いわばさまざまな「音」の重ね合わせになっていると考えられる。 「音」を「音階」ごとに分解できるように,ゆらぎをゆらぎの基準モードに分解でき,それを基本となる要素とみなすことができる。

ゆらぎの基準モードは単純な音とのアナロジーでは捉えられない性質をもつ。図cを見てほしい。たとえば点xにピアノを置いて,ドの音を鳴らしたとしよう。点yにマイクを置けば,当然ドが検知される。これはゆらぎでも音でも変わらない。ゆらぎの場合はハンマー等で点xを叩き,引き起こされたゆらぎの基準モードφを,点yにあるメーターがそのまま感知すると思って欲しい。つぎに点xでドを鳴らし,点yでソを鳴らしたとする。すると点zではドとソの和音が聞こえるはずである。これは音が線形性という重ね合わせの性質をもつからだ。しかし共形場理論ではそうはいかない。点zでは,点xや点yで鳴らしたゆらぎφとφの単純な重ね合わせでなく,すべての「音階」がごちゃ混ぜになったものが聴こえる。点xとyから出たゆらぎは点zに向かうまでに融け合い,似ても似つかぬものに変化するのだ!注)私はこのような非線形的な構造をもつゆらぎが伝搬する際,どう時空の因果律に影響されるかについて研究している。

私の研究は直接生活の役に立つわけではない。これはわれわれの宇宙がスケール依存性をもつ中で,私の研究はスケール依存性をもたない極端な世界を対象としていることからもわかるだろう。しかし応用などを一切忘れて自分の興味を追求する楽しさは,他の何事にも変え難いものがある。そうして培った常識にとらわれない自由な考え方が,何かを変える力になるのではないか?

注)つまり「あるゆらぎが他のゆらぎたちから作れる」ということになり,還元主義的な考えとは相容れない。すべてのゆらぎたちは等しく基本的なのだ。

 

 

理学部ニュース2022年1月号掲載

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