かくれんぼをする銀河の発見

百瀬 莉恵子(カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員*)

嶋作 一大(天文学専攻 准教授)  

 


銀河とは,たくさんの星が集まった巨大な天体だ。約一千億個の星を含み,太陽系の一億倍もの大きさをもつわれわれの住む銀河系もその一つだ。銀河は宇宙に無数にあり,あちこちで集団を作っている。集団の規模は銀河の成長のしかたを左右するので,宇宙のさまざまな時代で銀河の分布を調べることは銀河研究には不可欠だ。

過去(遠方)の宇宙の銀河分布は,水素原子のライマンアルファ(Lyα)輝線という紫外線の一種で明るい,「Lyα銀河」という銀河を用いて描かれることが多い。理由は,Lyα輝線は遠方宇宙でも観測しやすいからだ。しかし最近,Lyα銀河は,他の一般的な銀河が密に集まっている場所を避けて分布しており,銀河分布を正しくなぞれていないという例が報告された。そしてその原因として,Lyα銀河が「いるのに見えない」可能性が浮上してきた。

日食や月食ならいざ知らず,銀河という巨大な天体が隠れることなどあるのだろうか? 実はLyα銀河に限ってはありえるのだ。銀河間を満たす空間は真空ではない。銀河間ガスとよばれるガス(主成分は水素)が存在しており,その濃度に比例してLyα輝線を吸収してしまう。銀河が密な場所ほどガスも濃いため,密な場所やその背後にいるLyα銀河は,理屈上はわれわれから見えなくなる。濃い霧の中でライトを点けても近くしか照らせないのと同じだ。しかし「いるのに見えない」ことを示すは難しく,実際にこの現象が起きているか確証はなかった。

図:本研究から示唆される高密度領域と銀河の分布の模式図。高密度領域の手前にいる銀河(黄丸) から出たLyα輝線は私たちに届き,Lyα銀河として検出される。しかし,高密度領域やそのすぐ奥にいる銀河(オレンジ丸)から出たLyα輝線は高密度領域にある濃い銀河間ガスに吸収されて見えなくなる。検出された銀河(黄丸)では手前側(観測者側) のガス密度が奥側より低いことが見て取れる。  

そこで本研究は,Lyα銀河と銀河間ガスのデータが揃っている領域で,新しい手法を用いてこの可能性を検証した。各Lyα銀河の周りのガス濃度を,その銀河を境に手前側(われわれ側)と奥側に分けて測ったのだ。Lyα銀河の分布がガスと同じなら,多数のLyα銀河で平均するとガス濃度は手前と奥で同じになるはずだ。しかし結果は,手前側の濃度が奥側より低かった。これは,観測されたLyα銀河が,密な場所の手前側にいる傾向にあることを意味する (図)。しかし観測の向きはわれわれが勝手に決めたもので,Lyα銀河にとって特別な意味はない。ゆえに最も自然な解釈は,Lyα銀河は密な場所やその背後にも存在するが,一部は吸収でわれわれからは見えていないというものだ。実際,他の銀河では手前と奥でガス濃度に差は見られない。これはまるで,Lyα銀河がガスでかくれんぼをしているようだ。仮にこの領域を反対側から観測すると,隠れていたLyα銀河が姿を現し,代わりに別のLyα銀河が隠れてしまうだろう。

銀河の研究は,すべての銀河が見えていることを前提としている。しかし本研究によって初めて,そうとも限らないことがわかった。本研究はまた,Lyα銀河による銀河分布の推定の限界も明らかにした。ある程度以上密な場所を探すには,手間がかかるが他の銀河や銀河間ガスを使う必要がありそうだ。

銀河と銀河間ガスの関係の研究は発展途上で,わからないことだらけだ。次はどのような現象が見つかるか楽しみだ。

本研究成果はR. Momose et al ., The Astrophysical Journal Letters 912, L24 (2021) に掲載された。

* 研究当時:日本学術振興会 特任研究員

(2021年5月7日プレスリリース)

理学部ニュース2021年9月号掲載


 

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