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理学部ニュース

~ 大学院生からのメッセージ~
実は日本にもある?「レアアース」

 


長澤 真Makoto Nagasawa
地球惑星科学専攻
博士課程1年生
出身地
神奈川県
出身高校
神奈川県立湘南高等学校
出身学部
早稲田大学創造理工学部
環境資源工学科

 

科学技術は地球における生物としての人類を他の種とは根本的に異なる存在にたらしめ,時空間の超越(いつでもどこでも)さえも可能にしつつある。その発展を担ってきたのは,あらゆる社会基盤の構築に必要な天然資源であると言っても過言ではない。それゆえ,これまで数々の資源問題(寡占や枯渇)が生じており,さらに今日では,地球温暖化に代表される環境問題がより一層深刻になっている。幼い頃から自然が好きだった私は,これらの問題に対して危機感を感じ,現在地球惑星科学専攻で希土類元素(レアアース,REE)(注)の資源について研究している。

REEは「産業のビタミン」とも呼ばれ,ハイテク産業などの発展を支える重要な元素である。たとえば,今や私達の生活に欠かせないスマホやパソコン,今後さらなる需要が見込まれる風力発電や電気自動車,これらの製造に必要なモーター用磁石にはネオジム・ジスプロシウムなどのREEが用いられる。REE資源の一つに岩石の風化によって生じる「イオン吸着型鉱床(イオン鉱)」があり,(i)経済的に価値の高い重REEに富む,(ii)希薄電解質溶液によりREEを容易に抽出可能,(iii)その過程で放射性元素は溶出しないなどの理由から,経済的・環境的に注目されている。しかし,現在イオン鉱は中国南部のみで開発されており,2010年には尖閣諸島問題を発端とした対日REE 禁輸措置が講じられるなど,その偏在性は政治的な側面をも帯びている。ここで,イオン鉱の生成を支配する主な要因は源となる岩石(REE含有量の高い花崗岩など)およびその風化の程度(平均気温・降水量に依存)であることから,私の研究では中国南部と類似した気候帯に属し花崗岩が多くみられる日本においてイオン鉱の存在を予想している。

このような背景から,私は日本国内におけるイオン鉱の探査を見据え,イオン鉱中のREE濃集メカニズムやそのホスト鉱物を原子・分子レベルから解明しようと試みている。資源探査というマクロスケールな活動と,ミクロスケールな構造の探求には一見ギャップがありそうだが,実際は密接に関連している。たとえば, REEを吸着しているホスト鉱物が分かれば,その鉱物の存在条件を基に探査候補地を絞ることができる。さらに,REEがホスト鉱物中のどこにどのような状態で吸着しているかが分かれば,それを基にREEの抽出条件(溶液の種類や濃度など)を最適化することで製錬手法の改良にまでつながると考えている。


(注)スカンジウム・イットリウム・ランタノイド15元素(ランタン~ルテチウム)から成る17元素の総称。ランタン~ユウロピウムを軽REE,スカンジウム・イットリウム・ガドリニウム~ルテチウムを重REEと呼ぶ。
(左)ボーリングコア試料採取風景。人力で8m掘削した。

フィールドワークやサンプリング(図)で外に出ること,採取試料を原子・分子レベルまで「解剖」することは純粋に楽しいし,面白い。一方,そこで得られた情報はさまざまな応用可能性があり,社会の役に立つ。産学連携,学際研究など分野横断的な動きの目立つ21世紀の社会において,無限の可能性を秘める理学のボトムアップ的な考え方はますます重要性を増していると感じる。この記事が理学と社会のつながりを考えるきっかけとなれば幸いである。

 

 

理学部ニュース2021年7月号掲

理学のススメ>