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理学部ニュース

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理学部ニュース2026年5月号掲載

理学の謎>

水草はなぜ水中で生きられるのか

古賀 皓之
(生物科学専攻 准教授)

水中に涼しげに揺れる水草は,観賞魚のお供として,あるいは水草そのものを楽しむアクアリウムの主役として親しまれている。そんな水草は,実は陸上植物の仲間である。陸上植物は,もともと水中生活をしていた藻類の仲間から生まれ,4億5000万年以上前に陸上に進出した。その過程で,陸上環境に適応するためのしくみを獲得し,現在では40万種を超えるまでに多様化している。水草とは,そのような陸上植物の一部が,再び水辺や水中の環境へ適応したものを指す。動物でいえばイルカやウミガメなどを思い浮かべるとわかりやすい。

植物にとって,水と光は生きるために欠かせない。水辺は水が豊富で,光を遮るものも少ないため,植物にとって好都合にみえる。実際,水辺に再進出した植物は,コケ植物,シダ植物, 種子植物といった異なる系統の中にそれぞれみられ,このような適応が独立に何度も起こったことを示唆する。しかし,水辺の環境は良い面ばかりではない。最大の問題は,植物体が水に沈むことである。水中では,呼吸に必要な酸素も光合成に必要な二酸化炭素も得にくくなる。そのため,ふつうの陸上植物は短期間であれば水没に耐えられても,数日から数週間に及ぶと成長できず,やがて枯れてしまう。また,水流があれば,葉や枝に強い力がかかり,傷ついたり折れてしまったりすることもある。水草はこのような条件を乗り越えて,水辺の環境に適応してきた植物である。そこには,葉を水上に維持する抽水植物や浮葉植物,渇水時は陸上で育ち,水位が上がると水中でも育つことができる水陸両生植物,そして水中で暮らすことに特化した沈水植物など,さまざまな適応の仕方がある。

水草のなかでも沈水植物や水陸両生植物は,全身が水中にあっても健やかに成長できる点でとくに興味深い。なぜ彼らは,ふつうなら生存の難しい水中で暮らせるのであろうか。その重要な要素の一つは葉の形にあると考えられている。沈水植物や水中で育つ水陸両生植物は,細く薄い葉をつくる。種によっては葉が細かく分岐することもある。この形は系統の異なる多くの水草に共通して見られることから,水中生活になんらかの利点があると考えられている。たとえば,表面積を大きくしたり,外部との物質交換にあまり関わらない内部組織を減らしたりすることで,水中のわずかな酸素や二酸化炭素を効率よく利用できる可能性がある。しかし,こうした説明はまだ十分に確かめられていない。水中での生存には他にも,細胞壁などの微細構造や生理的な性質も関わる。そのため,葉の形がどのくらい水中での生存に重要なのかはわかっていない。また,そのような葉の形がどうやって獲得されたのか,進化のしくみもわかっていない。

この謎に迫るには,研究に適した水草を用いて,形づくりのしくみや生理的な特徴を,遺伝子レベルで深掘りする必要がある。私たちは,オオバコ科の水陸両生植物ミズハコベとその近縁種を水草研究の新たなモデルとして整備し,とくにその形づくりの進化の仕組みの解明に取り組んでいる。この新しい研究材料を通して,まだ誰も知らない水草の謎を解き明かしたい。

(水草の繁る河川にて,水中で細い葉をつけているミズハコベ(中央)と,細かく分岐した葉をつけている,同じく水陸両生植物のキクモ(左や上)