理学部ニュース
理学部ニュース2026年5月号掲載
理学のススメ>
~ 大学院生からのメッセージ~
光で物質を操り,物質で光を操る
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| 中本 大河 |
| 物理学専攻 博士課程1年生 |
| 出身地 千葉県 |
| 出身学部 東北大学理学部物理学科 |
リンゴは赤色で,空は青色である。金属には光沢があり,ガラスは半透明である。それぞれの物質がもつ色合い,光沢,透明度など,いずれも光と物質中の電子の相互作用によって決まっている。また,照明やディスプレイが明るく光るのは,物質中の電子たちの運動エネルギーを光に変換しているからである。こうした光と電子が織りなすミクロな世界の理に魅了され,私は光物性物理学の理論研究を志した。
この分野の醍醐味は,単に光を使って物質の性質を理解することに留まらない。もし,強い光を当てることで物質の性質を劇的に変えることができれば(=光で物質を操る),あるいは物質の状態を制御することで光の性質を書き換えることができれば(=物質で光を操る),これまでにない新しい科学の地平が開けるはずだ。このような問題に,ミクロな視点から答えを出すのが私の研究の目標である。
一方で,物質中の無数の電子たちが光と相互作用しながら運動する様子を,そのまま扱うことは不可能である。そこで,現象の背後にある本質を抽出したモデルを設計し,計算機の中でシミュレーションを行う。自分で組んだプログラムが一発で動くことはほとんどないが,試行錯誤の末に未知の物理現象が画面に現れる瞬間の高揚感は,何物にも代えがたい。新しいアイディアを計算し,うまくいったりいかなかったりを繰り返しながら日々研究を進めている。以下では,私が行ってきた研究を二つ紹介しよう。
「光で物質を操る」という観点では,物質が光を吸収することで生まれる,特殊なペア状態の研究を行っている。たとえば,電子が結晶中の各点に一つずつ詰まっている電子状態を考えてみよう。ここに光を照射すると「電子が2つ詰まった場所」と「電子が抜け出た穴」のペアが作り出される(図1-a)。このペアは,原子核と電子のペアから成る原子と似ており,面白い構造を持っている。
しかし,この状態は安定な環境下では存在できず,光を物質に照射することではじめて現れる。私は,物質中の電子状態を調べる「光電子分光」という観測手法によって,このペア状態がどのように観測されるのかを理論的に明らかにした(図1-b)。
「物質で光を操る」という観点では,二枚の合わせ鏡の中に物質を閉じ込めることで,「真空」から光を引き出す研究を行っている(図2-a)。量子力学の世界では,何もないはずの真空であっても電磁場は絶えず揺らいでいる。この揺らぎを増幅させることができれば,真空から光の粒子を取り出せる可能性がある。私は,電子たちの揺らぎが大きくなる相転移現象に注目し,相転移に近い状態の物質によって電磁場の揺らぎが劇的に増幅され,それが光の粒になって現れはじめることを突き止めた(図2-b)。これは,物質の状態を切り替えることで,光そのものを無から制御できる可能性を示している。
以上で紹介した二つの研究は,想定している実験のセットアップも違えば,光のエネルギースケールも全く異なる。しかし,イディアさえあれば自由に様々な研究をすることができるのは理論研究ならではの魅力である。自分のアイディアが実現する喜びを,ぜひ皆さんにも味わってほしい。

(1)(a)光の照射によって作り出されたペア状態。(b)光電子分光という手法で観測したときに得られる結果(T. Nakamoto et al.,arXiv:2603.18982に基づく)。 (2)(a)二枚鏡の中に閉じ込められた電子たち。(b)電子たちの揺らぎが大きくなる相転移点で光子数が劇的に上昇する(T. Nakamoto et al.,Phys. Rev. B 112, 155150(2025)に基づく)。


