理学部ニュース
理学部ニュース2025年11月号掲載
理学のススメ>
~ 大学院生からのメッセージ~
高周波重力波で開く宇宙や物理の新たな窓
![]() |
| 大塚 宗丈 |
| 天文学専攻 博士課程1年生 |
| 出身地 東京都 |
| 出身学部 東京大学理学部天文学科・ 東京大学工学部電子工学科 |
重力波望遠鏡KAGRAで「より高音」の重力波をとらえ,未知の天文学・物理学に迫ることが私の研究テーマです。
重力波は2015年に初めて直接検出され,その後100を超える,ブラックホールや中性子星の合体イベントが観測されています。現在,米国の LIGO,欧州の Virgo,日本の KAGRA という第二世代重力波望遠鏡が国際共同観測を行っています。これらは主に100 Hz帯で感度が高いのですが,もし1 kHz帯まで高感度化できれば,合体後にできる中性子星の「振動」を直接観測し,これから中性子星の性質(状態方程式),さらには未知の素粒子物理に関する手がかりを得られます。これは他の方法,例えば超大型の粒子加速器実験など,では決して得られない,重力波の観測を通じてのみ得られる知見で,例えば未発見のクォーク星存在に関する知見等です。
重力波の到来時には物体間の距離がわずかに伸び縮みします。これは,地球と太陽間の距離が原子1個分伸縮するような極微小の歪みで,光の干渉を用いて測定します。振動に埋もれないよう,望遠鏡の鏡は多段の防振装置で吊られています。KAGRA では,熱による振動(熱雑音)を下げるため鏡を極低温化しており,将来の第三世代重力波望遠鏡と同様の方式を先行的に採用しています。最終段では4本のサファイアファイバーで1つの鏡を吊っているのですが,このサファイアファイバーの熱雑音をさらに下げることが,感度向上にあたっての喫緊の課題となっているだけでなく,将来高周波感度を伸ばすためにも重要な事項となっています。このため私はファイバー熱雑音低減の研究を行っています。
低減手法の一つとして,レーザーによる融着接続があります。この研究は理学系研究科国際派遣プログラム(GRASP2025)に採択され,現在(2025年9〜11月)グラスゴー大学(The University of Glasgow)に滞在してレーザーによるサファイア融着接続の実験と評価を行っているところです。
私は東大で電子工学の修士課程を修了後,通信会社でエンジニアとして働いていました。しかし,幼い頃からの天文への憧れが高まり,思い切って退職し,本学の天文学科に入り直しました。そこで重力波研究に出会い,修士・博士とこの分野の研究に取り組んでいます。企業とは異なり,理学系アカデミアはフラットで自由な環境です。そこで自分は,大学・国籍・所属の別を越えて多くの専門家から親身の助言を頂けています。この「学生」という特別な立場と,実務の世界と同様に主体的に動くことの重要性を,職務経験を経て学生となった今,あらためて痛感しております。さらに,先述の派遣プログラムをはじめ,さまざまな学生支援体制が想像以上に充実しており,研究に集中できていることにも感謝しています。
家族から「ノーベル賞を目指すなら会社を辞めてもよい」と背中を押されて再び学生になった身として,その期待に応えるべく,理学の発展に少しでも貢献したいと考えています。重力波の「高音域」から宇宙の秘密を引き出し,誰も見たことのない物理に迫る—理論とものづくりの最先端が交差するこの研究の面白さを,読者の皆さまにも感じていただければ幸いです。

重力波望遠鏡KAGRAでの作業の様子。KAGRAは岐阜県神岡町の山中に建設された重力波望遠鏡。2010年にプロジェクトが発足して建設が進められ,2020年に国際共同観測を開始した


