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理学部ニュース

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理学部ニュース2025年11月号掲載

学部生に伝える研究最前線>

高密度核物質がクォーク物質へ変わるとき

田島 裕之(物理学専攻 助教)

 

「中性子星」と呼ばれる高密度天体は, 原子核物理における「自然界唯一の高密度物質の試験場」として注目されている。
その名の通り, 星の大部分は中性子の海であると考えられている一方,
重力波やX線の観測結果は星の最深部において中性子が溶けてクォークが自由に動き回る世界があることを示唆する。
しかし, 密度が増加するにつれて中性子の集団がどのようにクォークの集団へと変わっていくかはわかっておらず,
その解明が宇宙・原子核分野を跨いだ重要な問題となっている。
本研究では, 物性理論の側面からこの謎に迫った。

物体を圧縮していくとどうなっていくのだろうか。おにぎりをぎゅっと押しつぶしていくと,米粒の間に隙間がある内はすんなりと圧縮されていくが,次第に米粒が壊れて糊状の塊に変わっていく。これはおにぎりに限った話ではなく,身の回りの物質を極限まで圧縮すると類似の変化がみられる。原子核は陽子や中性子の集まりであり,その中身にはクォークと呼ばれる素粒子が存在する。 中性子の塊を極限まで圧縮していくと,次第に中性子が壊れてクォークの集団,すなわち,クォーク物質へと変わっていく。

原子核の密度は約3×1014 g/cm3 (おにぎりを100 gとすると角砂糖1個分の体積におにぎり約3兆個分)とすでに超高密度である。一方,それよりもさらに高密度な環境が特殊な天体の内部で実現し得ることが近年明らかとなった。それが,冒頭で述べた中性子星である。観測結果から,半径が約10 kmでありながら内部質量が太陽の2倍程度にも匹敵することがわかっている。半径と質量の関係がわかると,内部物質の圧力や密度の情報を得ることができ,中心密度は原子核密度の数倍に匹敵することが期待されている。この密度から中性子間の平均距離を見積もってみると,中性子のサイズよりも短くなり,まさに超高密度おにぎりの中で米粒が潰れたような状態といえる。中心部でクォーク物質が現れても何ら不思議ではない。

通常,物質の状態が変化する際は相転移を伴う。星の中心部で中性子の集団がクォーク物質へ変わるとすれば,これは相転移なのだろうか。実は,中性子星の観測データは,相転移ではなく連続的変化(クロスオーバー)である可能性を示している。しかも,音速が中間密度領域で最も速くなるというのである。この機構を明らかにするには,少なくともクォークが3つ集まって中性子ができるような状況を記述できる理論を用いて,そのような物質がいかなる性質をもつかを調べる必要がある。

本研究では,物質の性質を探る分野である物性物理学の知見を活かしてこの問題に挑んだ。物性分野において「BCS-BECクロスオーバー」と呼ばれる,超伝導とボース凝縮という異なる2状態の間を連続的に移行する現象が知られており,それとの類似性に気付いたためである。この現象を説明するには,分子の結合・解離が絶え間なく繰り返される過程,つまり,「揺らぎ」を適切に考慮する必要があることがわかっていた。そこで,クォーク3つからなる中性子の形成・解離の揺らぎを考慮した理論を構築し,実際に音速を調べてみると,確かに中間密度領域で速くなる結果が得られた。この成果が中性子星に対するさらなる分野融合研究の火付け役となることを期待している。

本研究成果は,H. Tajima et al., Phys. Rev. Lett. 135, 042701(2025)に掲載された。

中性子星の中心部および外縁部の物質の概念図と音速の密度依存性。 三原色の丸で表されるクォークが3つ結合した複合粒子がバリオン(中性子など)に対応する

(2025 年7月24日プレスリリース)