理学部ニュース
理学部ニュース2025年9月号掲載
理学のススメ>
~ 大学院生からのメッセージ~
地球の囁きは巨大地震について何を語るのか
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| 矢野 誠也 |
| 地球惑星科学専攻 博士課程1年生 |
| 出身地 埼玉県 |
| 出身学部 東京理科大学理学部物理学科 |
地震——この言葉を聞くと, 多くの人は, 大きな揺れを伴う激しい現象を思い浮かべるかもしれない。あるいは, カタカタという小さな揺れ(P波)のあとに, ドンと大きな揺れ(S波)が来るというイメージかもしれない。甚大な被害をもたらす大地震も, 日常生活ではほとんど意識されない微小地震も, 多くの場合P波とS波から構成されている(図A)。しかし, つい二十年ほど前に, こうした典型的な地震とは異なる, 新たな地震現象が発見された。それが「テクトニック微動」である。テクトニック微動の波形は, 通常の地震と明らかに異なる特徴を示す(図B)。多くの場合, 明瞭なP波は確認できず, S波の揺れも, 時間をかけて徐々に大きくなり, やがて緩やかに収束していく。
テクトニック微動は, プレート境界において, 地下深くの岩盤がゆっくりと「すべる」ように破壊することで発生すると考えられている。その揺れはきわめて微弱であり, 人が体感することはまず不可能である。それどころか, 高感度の地震計をもってしても, ようやく観測できるか否かというレベルである。にもかかわらず, 近年, この小さな揺れに大きな関心が寄せられている。その理由は, テクトニック微動が, 巨大地震の発生メカニズムを理解し, 発生タイミングを予測するための重要な手掛かりを秘めているかもしれないためである。
テクトニック微動は主に, 巨大地震が繰り返し発生してきた地域の周辺で確認されている。その発生パターンは完全にランダムなわけではなく, ある程度の周期性を示す。また, プレート境界に沿って震源が移動するケースもしばしばみられる(図C)。このような振る舞いは, プレート境界における「力のかかり方」の変化をリアルタイムに反映していると考えられる。とりわけ, テクトニック微動が普段とは異なる「異常な」挙動を示す場合, それはプレート境界の大規模な状態変化, ひいては巨大地震の準備過程を示唆しているかもしれない。
私は現在, テクトニック微動を正確に検出し, その発生パターンの分析を通じて, プレート境界の状態変化を検知するための研究を行っている。近年, 飛躍的に発展している人工知能(AI)の一分野である機械学習を活用し, 従来の手法では見落とされていたテクトニック微動まで, 網羅的に検出することを試みている。また, テクトニック微動の時間的・空間的な振る舞いを数学的にモデル化することで, テクトニック微動の「異常な」振る舞いを抽出する手法の開発も進めている。最終的には, テクトニック微動の観測を通じて, 巨大地震の発生リスクをリアルタイムに評価するための手法を確立することが, 究極的な目標である。
大きな発見は, 一見すると地味で目立たないものの中に潜んでいることがある。テクトニック微動という, ほとんど誰にも気づかれない地球の囁きに耳を澄ませることで, 私は目に見ることのできない地下深くの世界を少しずつ明らかにしようとしている。地震波という間接的な手がかりをもとに, 地球の内部で何が起きているのかを探ることで, 自然の本質に迫ろうとする営みこそが, 私にとっての地震学, そして理学という学問の最大の醍醐味である。

(A)通常の地震の波形。(B)テクトニック微動の波形。(C)約一ヶ月かけて震源が南西から北東に移動する様子


