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理学部ニュース

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理学部ニュース2025年5月号掲載

学部生に伝える研究最前線>

半導体露光プロセスのみで作れる平面レンズ

小西 邦昭(フォトンサイエンス研究機構 准教授)

 

従来のレンズが光の屈折を利用していたのに対し,
平面上に配置されたナノ構造で光の位相を精密に制御して
光の波としての性質を活用した多彩な集光特性を実現する
メタレンズが近年注目されている。
この構造の厚さは光の波長程度で,
極めて薄く製作できるという利点を有するが,
ナノメートルサイズの構造を精密に作製するには
多段階にわたる煩雑な
半導体加工技術が必要であった。
本研究では, 半導体露光プロセスで用いられる
フォトレジスト自体をレンズ材料として用いることで,
製造工程を大幅に簡略化する
新手法を開発することに成功した。

レンズは, 光学実験やカメラ,センサーなど幅広い用途で使用される基本的な光学素子である。従来,透明材料を研磨して球面状に加工し, 中心を厚くしつつ周辺に向かって薄くすることで, 光を適切な方向に 屈折させて一点に集める集光が実現されてきた。近年, 従来とは異なるメタレンズと呼ばれる新しいレンズが注目されている。メタレンズは平面基板上に光の波長程度のナノ構造を並べ, ナノ構造の形状によって透過光の位相を場所ごとに制御し, 空間上の一点で光を強め合うことで集光を実現する。ここでは, 従来の屈折とは異なり, 光の波動としての特性を活用している。また, メタレンズはナノ構造の厚さが光の波長程度であり, 極めて薄く製作できるという利点を有する。メタレンズを実現するにはナノメートルサイズの構造を精密に作製する半導体微細加工技術が不可欠であるが, 現在の技術ではトランジスタのゲート長は10 nm以下にまで縮小され, 可視光の波長(約350 nm ~750 nm)よりもはるかに小さい構造を作製できる。

しかし, メタレンズの作製には多段階にわたる複雑な工程が必要である。まず基板上に誘電体薄膜や金属薄膜を形成し,その上にフォトレジストを薄く塗布する。次に半導体露光装置で紫外光を照射してレジ ストを現像し, 微細パターンを形成する。その後, パターン形成されたレジストをマスクとしてエッチングを行い, 薄膜を加工し, 最後にレジストを除去するという工程を経る。これらの工程は非常に煩雑であり, より効率的な製造方法の開発が求められていた。

本研究では,フォトレジストを単なるマスクではなく,レンズ材料そのものとして利用する新しい手法を提案した。用いたのはJSR 株式会社が開発したカラーレジストであり, 特定の波長を吸収して光を遮断する特性を持つ。この特性を利用してフレネルゾーンプレートと呼ばれるレンズを簡便に作製した。フレネルゾーンプレートは幅の異なるリングが同心円状に並んだ構造であり,リング間を透過する光の干渉によって集光が実現する。従来の工程とは異なり, ガラス基板にカラーレジストを塗布し, 半導体露光装置で紫外光を照射して現像するだけという極めてシンプルな手法で平面レンズを作製できる。

この手法により, 直径8 インチのガラス基板上に多数のフレネルゾーンプレートレンズを一度に作製することに成功した。リングの幅と間隔は外側ほど小さくなり, 最も外側では約1ミクロンとなった。作製したレンズを用いて波長550 nm の光を集光したところ, 約1.1ミクロンのビーム径に集光できることを確認した。また, 波長450 nm および650 nm においても同様の性能を示し, 本手法が様々な波長に対応するメタレンズの作製に適していることを示した。

既存の半導体露光装置を用いることで, 高性能な平面レンズを大量かつ低コストで製造できる可能性が示され, この手法は光学素子製造技術に新たな可能性をもたらすものであると考えられる。

半導体露光プロセスのみで作製し た平面レンズの写真と集光の様子

本研究成果は,R. Yamada et al ., Light: Science & Applications, 14, 43( 2025)に掲載された。

 

(2025 年1 月16 日プレスリリース)