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理学部ニュース

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理学部ニュース2025年3月号掲載

学部生に伝える研究最前線>

日本各地で観測されたオーロラの色の謎に迫る

中村 勇貴(地球惑星科学専攻 特任研究員)

 

2024年5月11日に日本の広範囲でオーロラが観測された。
SNSでの呼びかけに応じて, 市民が撮影したオーロラの写真が集まった。
この「シチズンサイエンス」によって集められた写真の中から,二つの謎が浮かび上がった。
一つは,なぜ兵庫県などの緯度が低い地域でも観測されたのかという点であり,
もう一つは,なぜオーロラが通常とは異なるマゼンタ色を帯びていたのかという点である。
今回,われわれはこの二つの謎に対し,ベイズ推定と数値シミュレーションを駆使して解明に挑んだ。

太陽から放出されるプラズマ流(太陽風)の状態が変化すると,磁気圏が乱されて地球の周りの環状電流(リングカレント)が強化され,その結果,地上の磁場強度が大きく変動することがある。この現象は磁気嵐と呼ばれる。磁気嵐の際,磁気圏から高エネルギー粒子が大気に降り込むと,高緯度地域ではしばしばオーロラが観測される。オーロラが発光する緯度や高度,そして色は,磁気圏の状態や降り込んだ粒子の種類やエネルギー,大気の組成を反映するため,オーロラの起源を知るための重要な手掛かりとなる。 

2024年5月11日に,2003年11月以来で最大級の規模となる巨大な磁気嵐が発生した。日本でもオーロラが観測される可能性があったため,国立極地研究所の片岡龍峰准教授(本研究の代表研究者)がX(旧Twitter)で撮影を呼びかけた結果,日本全国からオーロラ写真が集まった。そして,日本各地で観測されたオーロラについて二つの謎が浮き彫りになった。一つは,オーロラが兵庫県などの緯度が低い地域でも見られたということである。複数地点のオーロラ写真におけるオーロラの上端仰角をもとに,オーロラが発光する緯度と上端高度を推定するベイズ推定を行った結果,日本各地で観測されたオーロラの緯度は北緯50〜53度付近,上端高度は通常よりもはるかに高い1000 km以上に達していた可能性が高いことが明らかになった。これが低緯度地域でもオーロラが観測できた理由である。もう一つの謎は,オーロラの色が典型的な低緯度オーロラの赤色とは異なり,マゼンタ色であったことである。われわれは,赤色のオーロラに窒素分子イオンの青色の発光が加わることで,オーロラがマゼンタ色に見えたのではないかと仮説を立て,数値シミュレーションによってこれを検証した。その結果,大気が加熱により膨張したことで,赤色のオーロラが高度800 km以上に延びる様子が再現された。一方で青色のオーロラは,要因の一つとしてリングカレントから大気へ流入する中性粒子による発光を想定していたが,その発光は弱く,今回のオーロラと対応しないことが定量的に示された。したがって,青色の起源は,地上が夜であっても日射域となる高高度にまで窒素分子イオンが大量に舞い上がり,太陽光の共鳴散乱によって生じる青色の散乱光であると結論づけられた。

2024年5月11日に日本各地で撮影されたオーロラ写真。aは青森から撮影されたオーロラの写真(KAGAYA氏撮影),bは北海道,cは中部,そしてdは東北から撮影されたオーロラの写真(市民提供)。マゼンタ色のオーロラが空高くまで延びている様子がわかる。マゼンタ色は,酸素原子による赤色のオーロラと,窒素分子イオンが大量に舞い上がり,太陽光の共鳴散乱によって生じた青色の散乱光が組み合わさることで形成されたと考えられる。© Scientific Reports, 15, 25849(2024)

本研究成果は, Kataoka, R. et al., Scientific Reports, 15, 25849(2024)に掲載された。

 

(2024年10月31日プレスリリース)