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理学部ニュース

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理学部ニュース2024年11月号掲載

学部生に伝える研究最前線>

吾妻鏡に記録された客星の正体を探る

黄 天鋭(天文学専攻 博士課程2年生)
茂山 俊和(天文学専攻 教授)

 

太陽のような恒星も有限の寿命をもち,最期には白色矮星という質量が太陽程度でサイズは地球ほどの高密度の天体になる。
恒星の多くは連星系をなすので,そのいくつかは白色矮星になった後に合体して爆発を起こすと予想されていた。
しかし,どの程度の爆発になるかは不明だった。
銀河系内の天体の爆発現象は,突然明るくなる「客星」と呼ばれる星として歴史書などに記されていることがある。
西暦1181年に客星として吾妻鏡などの歴史書に記録が残る天体は近年の多波長電磁波観測により,特異な白色矮星とそれを取り巻く膨張する星雲となっていることが判明した。
これは白色矮星同士の合体の結果と考えられた。私たちはX線観測データの再解析を行い,その当時何が起きたかを推測した。

この客星は,2019年にカシオペア座近くに発見された赤外線やX線で明るく輝き膨張する星雲とその中心にある白色矮星WD J005311と同定された(この天体までの距離はおよそ7.1×1016 km)。決め手になったのは方角の一致と,星雲の膨張速度とサイズから導き出された星雲の形成時期が客星の出現時期と一致したことである。

私たちは,XMM–NewtonというX線観測衛星によって2021年に観測された結果から,この星雲のエネルギーと質量を見積もることでこの星の爆発の規模を推定した。観測によると図の左に示されているように,X線放射は球状に広がった成分(半径4.5×1016 m)とその中心にある点状の成分を持っている。私たちは広がった成分は膨張する星雲が周囲にある薄いガスと衝突し,衝撃波がガスを加熱し放射したものと考えた(図右)。観測されたX線強度と広がり,爆発からの経過時間840年(=2021–1181)を全て説明するためには,この星雲の持つ運動エネルギーは(0.77–1.1)×1041 Jであり,その質量は太陽の0.18–0.53倍であることを理論的な計算から示した。白色矮星が起源と考えられているIa型超新星と比べるとエネルギーは3桁ほど小さく,質量は1/8から1/3ほどしかない。この客星は超新星としては小規模な爆発だったのだ。明るさが土星と同程度だったとの当時の記録とも符合している。

左図はX線の強度を色(青→赤→黄の順で強度が増える)で表し,等高線で赤外線強度を表している。右図は1181年の爆発によって生じた衝撃波と現在WD J005311から吹いている星風によって生じた衝撃波の位置関係を示す

XMM–Newtonより視力が良いX線観測衛星Chandraによる観測データを再解析することで,中心の点状X線放射領域は半径2.8×1014 m以上の大きさを持った領域からの放射であることが分かった。これは白色矮星の半径107 mより遥かに大きい。そこで,私たちは白色矮星から吹いている星風が星雲と衝突して107 Kほどの高温に加熱されX線が放射されると考えた(図右)。光速の5%の速さを持つ星風があることは可視光のスペクトルに見られた幅の広い輝線によって明らかにされていた。私たちは二つの白色矮星の合体によって形成された,高速で自転する強い磁場を持った重い白色矮星から吹いている星風の数値モデルを数年前に提案し,この白色矮星は質量が太陽の1.1–1.3倍で,周期12–30秒で自転している必要があることを示していた。恒星進化モデルによると,この大きな質量は白色矮星の元素組成が酸素とネオンを主成分としていることを示唆する。元素組成は観測されたX線と可視光のスペクトルからも見積もることができ,炭素核融合反応によって合成された元素が豊富で,理論予想と矛盾しない。こうして,この天体は,白色矮星の合体後にどのようなことが起きるのかが明らかになった最初の例になった。

しかし,こんなに高速の星風が白色矮星の合体直後から吹き続けているとすると,X線放射領域は観測結果より大きくなってしまう。それを避けるために,この星風はおよそ30年前に吹き始めたとする必要がある。この要請は更なる観測によって確認する予定だ。

本研究は複数の研究室にまたがる共同研究で,その成果は T. Ko et al., The Astrophysical Journal, 969, id.116(2024)に掲載された。

 

(2024年7月5日プレスリリース)