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Press Releases

DATE2024.07.05 #Press Releases

吾妻鏡に記された超新星が遺した奇妙な天体

――歴史的記録と最新科学の融合が解明する、SN 1181の研究成果――

発表のポイント

  • 1181年に出現した超新星爆発とそれの遺した活発な白色矮星の性質を明らかにした。
  • X線で多層に光る超新星残骸を初めて明らかにした。
  • およそ1000年前に生じた超新星爆発の残骸が現代に再び活発化するという類を見ない現象の解明に寄与し、超新星爆発の多様性理解に貢献することが期待される。


1181年に生じた超新星爆発残骸の多波長観測結果
(クレジット:G. Ferrand and J.English, NASA/Chandra/WISE, ESA/XMM ,MDM/R.Fessen, Pan-STARRS)


発表概要

東京大学大学院理学系研究科の黄天鋭大学院生らの研究グループは、他では見られない性質を持つ超新星残骸の性質を明らかにした。吾妻鏡などの古い歴史書や日記にはしばしば「客星」が記されている。これらは彗星や超新星爆発(注1)のように突如空に現れ、明るく輝き、やがて消える星のことである。客星の多くは現代の天文観測によって同定済みだが、平安時代から鎌倉時代への過渡期、1181年に出現した客星(SN 1181)の正体は長年未解明であった。2019年、SN 1181が出現したカシオペヤ座付近の方角に赤外線やX線で明るく輝く星雲とその中心にある白色矮星(注2)WD J005311が発見され、一躍SN 1181の残骸天体の有力な候補となった。本研究グループは、この天体について最新のX線観測データを解析し、その性質を説明する理論モデルを構築した。その結果、これはおよそ1000年前に2つの白色矮星が合体して生じた比較的暗い超新星爆発の残骸であり、歴史書に記されているSN 1181の性質と一致することを確かめた。加えて、WD J005311は爆発からおよそ1000年の時を経てここ数十年の間に再び活性化し高速の星風を吹かせ始めた、という類を見ない性質を持つことを発見した。通常の白色矮星を起源とした超新星爆発は宇宙の標準光源としても知られているが、本研究で明らかにした本天体はそのような超新星爆発より暗く、普遍的とされていた性質を持たないため、これらの違いを調べることによって、未解明である超新星爆発の発生メカニズムについての理解が深まると考えられる。

発表内容

太陽のような恒星は中心で生じている核融合反応によって光っているが、水素やヘリウムなどの燃料が尽きると、自ら光ることができなくなり、炭素と酸素を主成分とする白色矮星と呼ばれる「死んだ星」となることが知られている。しかし、このような「死んだ星」である白色矮星同士が合体すると、核融合反応が再び始まり、暴走することで爆発し、Ia型超新星爆発(注3)が生じると知られている。「死んだ星」が集まって生じるIa型超新星爆発は非常に明るく、それは一時的に銀河よりも明るくなることがある。また、Ia型超新星爆発の明るさはどれも同じような変動をするため、宇宙の「標準光源」として広く用いられている。この性質からIa型超新星爆発は宇宙の膨張速度や構造の研究にも大きな貢献をしており、宇宙の普遍的な存在である。このような超新星爆発は我々のいる天の川銀河においても数百年に一度の頻度で生じることが知られている。そのような超新星爆発は突然出現し、明るいものは満月と同じくらいの明るさで光り続けるなど、肉眼でもとてもよく観測された。そのため、超新星爆発は「客星」として多くの歴史書や日記等に記されている。それらに記されている超新星爆発の残骸のほとんどは既に同定されているが、1181年に出現した客星に該当する超新星残骸は長らく未解明であった。歴史書等にはその客星のおよその位置が記されているが、その付近でおよそ1000年前に形成された候補天体である超新星残骸が2019年になって初めて発見された。

これまで知られていたIa型超新星爆発はその残骸には天体が残されていたものは一つもなかった。しかし、この残骸に対する可視光の観測から、1181年の超新星残骸の中心には白色矮星の存在が示唆されており、そこから光速の5%ほどの速さで星風が吹いていることが明らかになった。そのため、1181年の超新星は他のIa型超新星とは異なる性質を持ち、この天体を研究することは、未知のIa型超新星爆発の爆発メカニズム解明に大きく貢献する可能性が周知された。しかしながら、この残骸は他の超新星残骸では見られない性質を他にも多く持っているため、それを説明する理論モデルは存在していなかった。

本研究チームはそのような類を見ない性質を持つ1181年の超新星残骸に対して、XMM-Newton衛星とChandra衛星によるX線観測結果を解析し、その超新星残骸はX線で光る多層構造を持つことを初めて明らかにした(図1参照)。中心の強いX線領域は他の超新星残骸で見られない性質であるが、これは中心天体から吹いている高速な星風によって形成されたと考え、本天体のモデル化を試みた。その結果、X線解析結果だけでなく、他の多波長観測の結果とも整合性の取れた唯一の理論モデルの構築に成功した。このモデルからは1181年の超新星爆発の性質を引き出すことができ、それは通常のIa型超新星爆発の明るさと比べて暗い超新星であることを明らかにした。吾妻鏡などの歴史書では1181年の客星は土星のような明るさであったと記録されているが、我々の結果はこれとも矛盾しないことがわかった。加えて、興味深いことに、本研究の結果、白色矮星から吹いている高速な星風はここ数十年以内に吹き始めたことを明らかにした。これはこの天体がおよそ1000年前に爆発し、中心に残された白色矮星がここ数十年になって再び活発化したことを表しており、この点でもこの天体は唯一無二の性質を持っている(図2参照)。


図1:1181年の超新星爆発残骸の多波長観測画像(左図)と本研究の模式図(右図)の比較

右の模式図には、多波長観測から推定された超新星爆発残骸の状態(左の半円)と、我々の理論モデル(右の半円)が含まれている。内側と外側のX線領域に、ダストの多い赤外線リングが挟まれている。内側のX線領域は風の終端衝撃波に対応し、外側のX線星雲は超新星の放出物と星間物質の衝撃波に対応している(本論文(Ko et. al. 2024)より改変)。


図2:1181年に生じた超新星爆発とその後の残骸の時間進化
1181年に出現した超新星爆発は二つの白色矮星の合体で生じたと考えられる。この際、通常の白色矮星合体による超新星爆発は残骸に星を残さないが、本天体では爆発しているにも関わらず白色矮星が中心に残されている。その後800年程度経った1900年代に白色矮星が再び活発化し星風が吹き始め、周囲の物質に衝突することで、超新星残骸の中にさらに強いX線領域が形成された(クレジット:黄 天鋭)。

本研究では1181年に生じた類を見ない性質を持つ超新星残骸の構造を観測、理論の両輪で調べることで、その性質を明らかにしたものである。本研究によって、この天体の未解明な性質が多く発見された。普遍的な天体であるIa型超新星爆発のなかで、この天体が例外的な性質を持つ理由を将来的に解決していくことによって、未解明である白色矮星同士の合体による爆発メカニズムについての理解が深まることが期待される。

関連リンク:
東北大学

論文情報


雑誌名 アストロフィジカル・ジャーナル(The Astrophysical Journal)
論文タイトル
A dynamical model for IRAS 00500+6713: the remnant of a type Iax supernova SN 1181 hosting a double degenerate merger product WD J005311
著者
Takatoshi Ko*, Hiromasa Suzuki, Kazumi Kashiyama, Hiroyuki Uchida, Takaaki Tanaka, Daichi Tsuna, Kotaro Fujisawa, Aya Bamba, Toshikazu Shigeyama
:責任著者)
DOI番号

10.3847/1538-4357/ad4d99

研究助成

本研究は、科学研究費補助金(課題番号:24KJ0672、21J00031、20K04010、20H01904、22H00130、24K00668、22H01265、19H01936、21H04493、23H01211、20K14512、22K03688、22K03671、20H05639)、理化学研究所大学院生リサーチ・アソシエイトプログラムの支援により実施されました。

用語解説

注1  超新星爆発 
夜空に突如として現れ、明るく輝く星は新星と呼ばれるが、その中でも特に明るいもの。白色矮星と他の星が互いの周りを回っている連星系で生じるIa型と大質量の星が寿命の終わりに引き起こすII型に分類される。

注2  白色矮星 
太陽質量の8倍以下の質量をもつ恒星の進化の最終状態。核融合反応が止まり、自力で光ることのできなくなった星であり、銀河系にある恒星の97%以上がこのような進化をたどると考えられている。

注3  Ia型超新星爆発 
白色矮星と相方の星が互いの周りを回っている時に、白色矮星が相方の星から物質を取り込むことで発生する爆発。白色矮星が一定の質量に達すると、炭素と酸素の核融合反応が急速に進行し、極めて明るい爆発を引き起こす。Ia型超新星爆発は、宇宙の膨張を測定するための「標準光源」としても重要な役割を果たしている。その一貫した明るさと特徴的な光度曲線により、遠方の銀河の距離を正確に測定することが可能となり、宇宙の膨張速度や暗黒エネルギーの研究において重要な手掛かりを提供する。