私は本学で2016年に学位を取得後,三菱電機株式会社に入社し,現在は研究職として働いています。
学生時代は,宇宙のことを知りたいという純粋な興味で天文を学び,主に銀河の研究と天体観測装置の開発に従事しました。その中でも,天体観測装置の開発は,比較的小さな装置でしたが,一から開発に関わったことが自分の可能性を広げる貴重な経験となりました。天体観測装置の開発には,光学・機械・電気などさまざまな知識が必要になります。当時ほとんど知識や経験がなかった私に一からご指導いただいた教員の方々をはじめ,お世話になった多くの皆さんには感謝の念に堪えません。
博士課程の修了までには複数の天体観測装置の開発に関わりました。開発した装置を天文台にある大型望遠鏡に搭載して観測を行う際は,失敗できないというプレッシャーがありましたが,実際に天体画像が取得できたときには,大きな喜びを感じました。また,自分の研究のためだけでなく,他の研究者の方に装置を使用してもらうことで,さまざまな研究の役に立てることにやりがいを感じました。そのような経験を積む中で,アカデミアに進むよりも,ものづくりで他の人の役に立つことの方が自分には向いていると思い,電機メーカーへの就職を希望するようになりました。学生の時は,電機メーカーは工学系出身の方がほとんどで受け入れられないのではないかという不安がありましたが,理学系出身の先輩方も多く活躍されており,就職活動の際にはそのような先輩方の実績やサポートが助けとなりました。
就職後は,主に光学式センサの開発に携わってきました。私が入社した会社は家電から宇宙まで幅広い事業を手掛けており,これまでに既存製品の改良から新規事業の研究まで適用先の異なるさまざまなセンサを開発してきました。その度に新しい世界を知ることができ,他ではできないような貴重な経験ができることに魅力を感じ,充実した会社生活を送っています。
現在の仕事は,学生時代の天体観測装置の開発と技術分野は基本的に同じで,そこで身につけた知識と経験はそのまま活かすことができています。また,仕事では,実験やシミュレーションを通して物理現象の理解が必要になることが多く,学部時代に学んだ物理の基礎知識が役立っています。また,学会発表・論文執筆や特許取得が成果として求められるため,大学院時代の研究活動の経験を活かせる機会は多いです。
今回,在学生の方にキャリアパスを考えるきっかけとなる文章をお届けすることになり,僭越ながら私の学生時代の研究と現在の仕事内容について紹介させていただきました。卒業までに得られる知識や経験は人それぞれと思いますが,そこで得たものを活かして理学から羽ばたいた一例として参考になりましたら幸いです。