DATE2026.08.18 #Press Releases
出産と直立二足歩行の再考
― ネアンデルタール人の骨盤が、長年の進化論に疑問を投げかける ―
発表概要
スイス・チューリッヒ大学のクリストフ・ゾリコファー博士、マルシア・ポンセ・デ・レオン博士、スペイン・ムルシア大学、ムルシア古人類学・第四紀研究協会のマイケル・ウォーカー博士、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の近藤修准教授らは、スペインのパロマス洞窟、シリアのデデリエ洞窟から出土した、ほぼ完全なネアンデルタール人の骨盤をコンピューター上で復元し、出産に関わる骨盤の内部構造と歩行に関連する外部構造に関して、ネアンデルタール人と現代人での異同を明らかにしました。これは、ヒトの骨盤進化に関する長年の仮説である、「産科的ジレンマ」仮説を覆す可能性があります。
「産科的ジレンマ」仮説は、数十年にわたり、ヒトの骨盤形状に関する標準的な説明とされてきました。この仮説は、ヒトの骨盤形状が、脳の大きな赤ちゃんを出産する必要性と、直立二足歩行を効率的に行う必要性との間のトレードオフであるとしています。
今回の研究では、ネアンデルタール人と現代人の骨盤形状について、出産に関わる骨盤の内部構造は両者で似ているが、歩行に関連する外部構造は歩行開始以前の幼児段階から両者の間で明確に異なっていることを示しました。これは、歩行効率が産道を制限する主な要因ではなかったことを示唆しており、真のトレードオフは出産と骨盤底の安定性の間にあるかもしれません。
この研究により、人類の骨盤進化に関する仮説として、単純な「出産 vs 歩行」というストーリーから、安定性、移動、出産のすべてがその形成に関連するという、より複雑な「多因子骨盤」モデルが提唱されました。
研究成果は、2026年8月17日に国際学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されました。
シリアのデデリエ洞窟から出土した生後1.5年のネアンデルタール人幼児の骨盤(左)と、スペインのシマ・デ・ラス・パロマスから出土した若い成人女性の骨盤(右)の仮想復元。形態の違いを際立たせるため、年齢および性別が一致する現代人の骨盤を半透明で重ねて表示している。 画像提供:マルシア・ポンセ・デ・レオン、クリストフ・ゾリコファー(チューリッヒ大学)
発表雑誌
| 雑誌名 | Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) |
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