DATE2025.11.21 #Press Releases
地球の水素と炭素はほとんどがコアに
ー地球全体の存在量から水と炭素の由来を推定ー
発表のポイント
- 今回の高圧高温実験により、地球形成時にコアへどれだけの水素と炭素が取り込まれたかが明らかになりました。
- その結果、地球の水素と炭素の9割以上がコアに存在することがわかりました。(コア以外の部分では水素は主に水として存在)
- 従来、地球の水(水素)と炭素は、これらに富む炭素質コンドライトタイプの物質に起源を持つと考えられてきましたが、今回およそ半分が非炭素質コンドライトに由来することが示されました。

地球深部の環境を実現するダイヤモンドアンビルセル装置(左)と
高圧高温下でコアとマントル物質の化学反応を見るための実験試料(右)
発表概要
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の堤裕太郎大学院生(研究当時)、横尾舜平助教、廣瀬敬教授を中心とした研究グループは、北海道大学の同位体顕微鏡(注1) と大型放射光施設SPring-8(注2) のX線とを利用して、金属鉄とシリケイトメルト間の水素と炭素の分配係数(注3) を決定しました。金属鉄はコア、シリケイトメルトは地球形成時に地球を覆っていたマグマオーシャンにあたります。今回の実験の結果、地球内部の高圧高温下では水素・炭素ともに、鉄と合金を作りやすいことがわかりました。また水素・炭素の分配係数をそれぞれ別個に調べた場合と比べて、2つが同時に存在すると互いに影響し合うことにより、双方の分配係数とも大きく低下することが明らかになりました。
さらにその分配係数を使って、地球の集積とそれに続くコア形成に関するモデリングを行い、現在観測される海+地殻+マントル中の水・炭素の量やその他の観測量(例えば地球全体に占めるコアの質量割合)などを説明する、コア中の水素・炭素量を推定することに成功しました(地球の水素は、コア中では水素として鉄と合金を作り、それ以外の部分では主に水として存在します)。
また今回の結果、コアを含めた地球全体が持つ水・炭素量がようやく明らかになり、地球を作った材料物質を推定することが可能になりました。従来、地球の水(水素)と炭素は、炭素質コンドライト(注4) と呼ばれる水と炭素に富む物質に起源を持つと考えられてきましたが、今回およそ半分が非炭素質コンドライトタイプの物質に由来することがわかりました。

図1:現在の地球の内部構造(左)と原始地球への物質の集積とコア形成の概念図(右)
新たに地球へ集積したインパクタ中の金属鉄は、当時の地球を覆うマグマオーシャン中を落下し、シリケイトメルトから水素や炭素を受け取ったのち、塊となって中心部のコアへ落下していく。
発表内容
背景
水や炭素は、生命の星・地球を特徴づける重要な要素です。地球の水は海だけでなく、マントル中にも海水と同じかそれ以上の量が存在するとされています。炭素もマントル中に水(質量にして)と同程度の量が含まれていると考えられます。しかしながら、地球の中心部に存在するコア(図1左)中にどれだけの水素や炭素が存在するかは、まだわかっていません。ゆえに、地球全体が持つ水素・炭素量もわかっていないのです。
コアは質量にして地球全体の3分の1もあります。そのうち95%が液体の外核です。外核は鉄よりも8%軽い(密度が小さい)ことが知られています。これは鉄よりも原子番号の小さい元素(軽元素)が大量に含まれていることを意味しています。このことが1952年に報告されて以来70年以上が経ちますが、コアにどの軽元素がどれだけ含まれているのか、未だに突き止められていません。酸素・ケイ素・硫黄と並び、水素・炭素もコアの軽元素の有力候補です。
地球形成時、地球は深さ1000km以上のマグマオーシャン(マグマの海)に覆われ、その中を金属鉄が中心部へ向かって落下し、コアを形成したとされます(図1右)。その際、マグマオーシャン中で、金属は周囲のシリケイトメルト(マグマ)と化学反応を起こし、シリケイトメルトに含まれていた軽元素を取り込んだはずです。この際に取り込んだ量を決めるのが分配係数です。過去に行われた、金属鉄とシリケイトメルト間の分配係数を水素と炭素について別個に調べた実験によれば、地球内部の高圧高温下ではどちらも金属鉄に濃集することがわかっています。それは地球の水素も炭素もコアに多く含まれていることを示唆していました。ところが、金属鉄中に同時に水素と炭素が含まれる場合、互いに影響し合うことが知られており、その効果が分配係数をどこまで変化させるか、わかっていませんでした。そこで今回、金属鉄とシリケイトメルト間の分配係数を水素と炭素について同時に決定する実験を行いました。
研究内容
本研究では、ダイヤモンドアンビルセル装置(注5) (冒頭に写真)を使って、33–56 万気圧と3630–4760ケルビンの高圧高温状態を作り出し、金属鉄とシリケイトメルトの間の水素と炭素の分配実験を行いました(図2)。ごく微小(10ミクロン程度)な高圧高温実験試料中に含まれる溶融金属鉄中の水素量を放射光施設SPring-8におけるエックス線回折測定によって、また炭素量を電子線マイクロアナライザを使って決定しました。さらに、金属鉄の周囲のシリケイトメルト中の水(水素)・炭素量を北海道大学の同位体顕微鏡によって決定することに成功しました。

図2:高圧高温実験後に回収した試料の断面
中心部に溶融していた金属鉄、その周囲にシリケイトメルト。白いスケールバーは10µm。金属鉄とシリケイトメルト中それぞれの水素・炭素量から、水素と炭素の分配係数が得られた。
これにより、コアとマグマオーシャン(現在の岩石マントル+地殻+海)の間の水(水素)と炭素の分配が明らかになりました(図1右)。マグマオーシャン中の高圧高温下では、水素・炭素ともにシリケイトメルトよりも鉄に濃集すること、また水素・炭素の分配係数をそれぞれ別個に調べた場合と比べて、2つが同時に存在すると双方の分配係数が大きく低下することが明らかになりました(図3)。
図3:金属鉄/シリケイトメルト間の水素(左)と炭素(右)の分配係数
他のパラメタを合わせた場合、水素の分配係数DHは金属鉄中の炭素により、また炭素の分配係数DCは金属鉄中の水素により、それぞれ大きく減少することがわかった。
さらに今回決定された分配係数を用いて、地球の集積とコアの形成に関するモデリングを行いました。地球へ集積するインパクタの大きさ、マグマオーシャンの深さなどさまざまなパラメタを変化させ、現在観測される海+地殻+マントル中の水・炭素の量やその他の観測量(マントル中のFeO量や地球全体に占めるコアの質量割合など)と整合的なモデルを探索しました。その結果、以下に示すようなコア中の水素・炭素量の推定に成功しました(図4左)。また、それらは地球全体が持つ水素・炭素量を与えます(図4右)。
地球の起源物質とされるコンドライトは、水や炭素を多く含む炭素質コンドライトとそれらに乏しい非炭素質コンドライトに大別されます(図4右)。従来、地球の水(水素)と炭素は主に炭素質コンドライト物質に起源を持つと考えられてきましたが、今回水は最大で53%、炭素も最大で72%は非炭素質コンドライトタイプの物質に由来することがわかりました。
図4:地球集積+コア形成モデルが示す、コア中の水素・炭素量(左)と地球全体の量(右)
パラメタ次第で推定される存在量が変化する。地球の水素(水)のおよそ半分は非炭素質コンドライトタイプの物質(NC)によってもたらされたことがわかる(左図のカラーバーを参照)。右図の青い線で囲まれた範囲は炭素質コンドライトタイプ物質が持つ水と炭素の範囲、赤は非炭素質コンドライトタイプ物質が持つ範囲を示す。
意義・今後の展望
まず今回の結果は、コア中の水素・炭素量を制約したという意味で、大きな意味を持ちます(図4左)。コアの軽元素の軽元素の有力候補は、水素・炭素・酸素・ケイ素・硫黄です(図5)。このうち硫黄は宇宙化学的な制約からすでにその存在量が求められています。今回水素・炭素量が制約されたことにより、残るはケイ素と酸素です。これらはマントルの主成分であり、これらの量はマグマオーシャンの深さや地球の材料物質の酸化状態に大きく依存します。今後、それらの理解が進むと期待されます。
また今回のモデリングは、地球の水・炭素はコンドライトによってもたらされたことが前提になっています。コンドライトは、小惑星帯(火星と木星の間)に存在する物質です。しかし最近では、より遠くの物質によって地球へもたらされた可能性や、少なくとも水(水素)については原始地球を取り巻く原始太陽系円盤ガス(水素・ヘリウム主体)を取り込んだ可能性もあり、水素同位体組成を使った、さらなる検討が必要です。
図5:コアの軽元素の候補それぞれを主張する論文の累積総数
コアに軽元素が多く含まれていることが明らかになったのが1952年。水素と炭素に関する論文数が少ないのは実験の困難さにも起因している。
関連情報
「プレスリリース①地球コアに大量の水素 ~原始地球には海水のおよそ50倍の水~」(2021/5/11)
「プレスリリース②地球マントル深部での水の大循環が明らかに」(2024/6/21)
発表者・研究者等情報
東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻
堤 裕太郎 研究当時:博士課程学生
横尾 舜平 助教
廣瀬 敬 教授
北海道大学総合イノベーション創発機構
坂本 直哉 准教授
関連リンク
論文情報
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雑誌名 Nature Communications 論文タイトル Origin of Earth's hydrogen and carbon constrained by their core-mantle partitioning and bulk Earth abundance著者 Yutaro Tsutsumi, Naoya Sakamoto, Kei Hirose*, Shuhei Mita, Shunpei Yokoo, Han Hsu & Hisayoshi Yurimoto
(*:責任著者)DOI番号 10.1038/s41467-025-65729-5
研究助成
本研究は、科研費「特別推進研究(課題番号:JP21H04968)」、「基盤研究S(課題番号:JP21H04985[駿佐1] [理学部広報室2] )」と文部科学省「顕微イメージングソリューションプラットフォーム」の支援により実施されました。
用語解説
注1 同位体顕微鏡
二次イオン質量分析法と独自開発の二次元イオン検出器を組み合わせて、試料表面の同位元素分布を三次元的に可視化する装置です。イオンビームを試料に照射し放出された二次イオンを取得し計測します。高感度・高空間分解能で、元素の定量、同位体比測定が可能です。↑
注2 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。↑
注3 分配係数
ある元素に注目し、化学平衡状態にある2つの相の中の濃度を比べた場合、どちらの相の濃度が何倍高いかを示す値。↑
注4 コンドライト
初期の太陽系で形成され、その後の熱変成などを受けていない、始原的な隕石。水や炭素を多く含む炭素質コンドライトと、それらに乏しい非炭素質コンドライトに大別されます。↑
注5 ダイヤモンドアンビルセル装置
先端が尖った2つのダイヤモンドの間に試料を挟み、加圧した後、レーザーを照射して試料を高圧高温状態にする装置。地球中心の極限環境(364万気圧、5400ケルビン)を超える高圧高温を発生できます。冒頭に写真。↑

