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Press Releases

DATE2025.11.25 #Press Releases

末端構造の異なる3系列の金量子ニードルを発見

ー金ナノクラスター融合反応による異方的伸長ー

発表のポイント

  • ある特定の金ナノクラスターを高濃度で加熱すると逐次的な融合反応が進行し、一定のピッチで伸長した「金量子ニードル」が生成することを発見した。
  • これまで知られていた金量子ニードルの系列に加え、末端構造の異なる2種類の系列を新たに見いだした。
  • 量子ニードルの長さと末端構造を選ぶことで、近赤外領域における吸収波長を制御することが可能であり、温熱療法・生体イメージング・光エネルギー変換などへの応用展開が期待される。


今回発見した末端構造の異なる3系列の金量子ニードル


発表概要

東京大学大学院理学系研究科の濵﨑佑哉大学院生、城ノ上諒太大学院生(当時)、髙野慎二郎助教佃達哉教授らによる研究グループは、ある特定の金ナノクラスター(注1)の高濃度溶液を加熱すると融合反応が逐次的に進行し、三角形Au3の積層構造が4層ごとのピッチで伸長した「量子ニードル」と呼ばれる針状構造体が高収率で得られることを発見しました。両端が四面体Au4で終端された既知の量子ニードルの系列に加えて、片端のみがAu3で終端した系列、および両端共にAu3で終端した系列が新たに見出されました。これらの金量子ニードルは、その長さと末端構造に応じて800〜2000 nm(nm:ナノメートル、ナノは10億分の1)の範囲の特定波長の近赤外光を強く吸収することから、温熱療法・生体イメージング・光エネルギー変換などへの応用展開が期待されます。

発表内容

金ナノクラスターはバルク(塊状)の金とは異なる原子配列、非金属的な電子構造を持つことから、特異な化学的・物理的性質を示す機能性ナノ物質として注目されています。金ナノクラスターは、表面を有機配位子で保護することで構成原子数を厳密に制御しながら安定化合物として合成することができます。特に金と親和性の高いチオラート(RS注2)配位子が典型的な安定化配位子として利用され、これまで多くの組成のチオラート保護金ナノクラスターが報告されてきました。それらの多くは、球形に近いコア構造(例えば正二十面体構造(注3)など)を持ち、可視〜紫外光領域に強い吸収を示すことが知られていました。 最近、同研究グループは、金チオラート錯体の還元を制御することで「量子ニードル」と命名した針状のナノクラスターAu33(SR)25およびAu34(SR)26の合成に成功しました(プレスリリース①)。これらの量子ニードルは、三角形Au3ユニットが5層積層してできたAu1(Au3)5をコアとして持っており、750 nm付近の近赤外光を強く吸収し、800~1100 nmの近赤外光を発光します。近赤外光は、生体透過性が高く、バイオイメージングや非侵襲医療などでの利用が検討されていることから、750 nmよりも長い波長領域に応答する量子ニードルを合成することは、これらの応用を進める上で重要な課題と言えます。

同研究グループではすでに、金ナノクラスターを融合させることで2個の正二十面体が部分的に融合した異方的な構造体の合成に成功しています(文献1)。これに着想を得て、本研究では最短の量子ニードルAu1(Au3)2Au1をコアとして持つAu24(SR)20ナノクラスター(図1(a))に着目し、その融合反応による量子ニードルの合成を検討しました。実際にAu24(SR)20の高濃度溶液を65 ℃に加熱すると、加熱時間と共に紫外可視近赤外吸収スペクトルの近赤外領域に 新たな吸収ピークが現れることを見出しました(図1(a))。この反応溶液を分取薄層クロマトグラフィー(注4)により分離精製することで、多数の成分を単離することに成功しました。主生成物の化学組成を質量分析によって決定したところ(図1(b))、Au18(SR)12間隔の以下の系列が得られました。
・系列I: Au42(SR)32 → Au60(SR)44 → Au78(SR)56 → Au96(SR)68 → Au114(SR)80

これらの吸収スペクトル(図1(c))には、近赤外領域に強い吸収ピークが確認できました。この吸収スペクトルが別の方法で合成された量子ニードル(文献2)のスペクトルに酷似していることから、Au24(SR)20の融合によって図1(d)に示す構造の量子ニードルが生成したものと結論しました。


図1:(a) 融合反応中の紫外可視近赤外吸収スペクトル。インセット:Au24(SR)20の構造。(b) 分取薄層クロマトグラフィーによる分離の様子と各バンドに含まれるナノクラスターの化学組成。単離されたナノクラスターの(c) 紫外可視近赤外吸収スペクトル、および(d) 幾何構造。大きい黄色・橙色・茶色の球はコアの金原子、小さい黄色ドットは表面の金(I)原子、赤いドットはチオラートの硫黄原子を表す。三角形Au3の積層構造を 4層ごとに橙色と茶色で色分けすることで、等間隔のピッチで伸長することを表している。簡略化のため、チオラートのその他の構造は省略している。

図1(b)を精査すると、主成分の量子ニードルのバンド(色がついている部分)の間に微かなバンドが見てとれます。このバンドを分画し、質量分析によってその組成を調べたところ、Au18(SR)12ずつ組成が増加する2つの系列が見つかりました。
・系列II: Au52(SR)38 → Au70(SR)50 → Au88(SR)62
・系列III: Au48(SR)36 → Au66(SR)48 → Au84(SR)60

このうち、Au52(SR)38は同研究グループの以前の報告(プレスリリース①)にあるAu34(SR)26からAu18(SR)12が増えたものであることから、系列IIは系列Iの片端の四面体Au4を除いたコアを持つことを提案しました(図2b)。さらに、系列IIIは系列IIからさらに末端の四面体Au4を除いた円柱状のコア構造を持つことを提案しました(図2c)。これらの構造の妥当性は、モデル構造に対する量子化学計算によって確認されました。

図2:末端構造の異なる量子ニードルの系列。(a) 系列I, (b) 系列II, (c) 系列III。大きい黄色の球はコアの金原子、小さい黄色ドットは表面の金(I)原子、赤いドットはチオラートの硫黄原子を表す。簡略化のため、チオラートのその他の構造は省略している。

本研究により、金量子ニードルには末端構造に応じて3種類の系列があるものの共通の伸長パターンを持つことが明らかとなりました。末端構造の微細な違いは、量子ニードル特有の強い近赤外吸収ピーク波長を精密に制御することを可能にします。一方、融合過程の詳細は謎のままであり、今後、反応中に構造がどのように変化するかを実験や計算科学によって追跡することで、合成の収率・選択性のさらなる向上やニードル構造の多様性の実現につながるものと期待されます。本研究の成果は、近赤外光の有効利用に向けた可能性を示すだけでなく、新たなナノマテリアル群の創出の可能性を示しています。

関連情報

「プレスリリース①異方的成長による量子ニードルの合成を実現」(2025/9/5
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/10899/

文献1: Ito, E.; Takano, S.; Nakamura, T.; Tsukuda, T. Controlled Dimerization and Bonding Scheme of Icosahedral M@Au12 (M=Pd, Pt) Superatoms. Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 645–649.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/anie.202010342

文献2: Luo, L.; Liu, Z.; Kong, J.; Gianopoulos, C. G.; Coburn, I.; Kirschbaum, K.; Zhou, M.; Jin, R. Three-Atom-Wide Gold Quantum Rods with Periodic Elongation and Strongly Polarized Excitons. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2024, 121, e2318537121.
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2318537121

発表者・研究者等情報

東京大学大学院理学系研究科 化学専攻
 濵﨑 佑哉 大学院生
 城ノ上 諒太 大学院生(研究当時)
 髙野 慎二郎 助教
 佃 達哉 教授

関連リンク

科学技術振興機構(JST)

論文情報

雑誌名 Journal of the American Chemical Society
論文タイトル
Gold Quantum Needles Synthesized by Thermal-Induced, One-Dimensional Oligomerization of Au24(SC2H4Ph)20
著者 Yuya Hamasaki, Ryota Jonoue, Shinjiro Takano,* and Tatsuya Tsukuda*
(*:責任著者)
DOI番号 10.1021/jacs.5c14201

研究助成

本研究は、JST「戦略的創造研究推進事業 CREST(課題番号:JPMJCR20B2)」、科研費「基盤研究B(課題番号:JP23K26610)、学術変革領域研究B(課題番号:JP25H01394)」、住友財団基礎科学研究助成の支援により実施されました。

用語解説

注1  金ナノクラスター
金原子が数個から数百個集まってできた超微粒子で、正二十面体(注3)などの特異な構造を取り、電子構造が量子化されていることから、バルク(塊状)の金属からは予想できない特異な触媒性能・発光特性を示す。有機配位子で表面が保護された金ナノクラスターでは、原子精度での合成技術と単結晶X線構造解析によって、構造と物性・機能の相関が解明されつつある。

注2  チオラート(RS
アルコール(ROH)の酸素原子を硫黄原子に変えた構造を持つチオール(RSH)のプロトン(水素イオン)が解離し、陰イオンとなった化合物の総称。金や銀などの貨幣金属に対して高い親和性を示し強く結合するため貴金属ナノ粒子や貴金属ナノクラスターの表面を安定化するために頻用される。

注3  正二十面体構造
正三角形のみで表面を囲んでできる正多面体のうち、20枚の面でできた極めて高い対称性を持つ立体の一つである。最密充填(じゅうてん)の立方八面体構造よりも表面エネルギーが低いことから、ナノ粒子・ナノクラスターだけでなくウイルスなどの構造でも頻繁に現れる。例えば安定な金ナノクラスターAu25(SR)18は、正二十面体のAu13コアを6個の–SR[-Au-SR]2–が保護した構造を持つ。

注4  分取薄層クロマトグラフィー
化合物を移動相(有機溶媒)に溶かし、固定相(シリカゲル)との間の相互作用の違いによって分離するクロマトグラフィーの手法の一つ。細かい固定相の粒子を薄くガラス板の上に塗布し、混合物を原点に吸着させた後、移動相を原点から毛細管現象によって上部に展開する。分離した化合物のバンドはガラス板上から掻き取り、化合物が良く溶ける溶媒によって回収する。