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理学部ニュース

~ 大学院生からのメッセージ~
ニワトリの胚発生に見る恐竜の進化

 


宇野 友里花Yurika Uno
地球惑星学専攻 博士課程2年生
出身地
新潟県
出身高校
新潟高等学校
出身学部
お茶の水女子大学 理学部

 

保育園に通っていた頃に映画「ジュラシックパーク」をみたことが,恐竜に興味を持ったきっかけだったように思う。画面の中の,巨大で恐ろしくも美しく,実際にこの目で見ることは叶わない絶滅した動物に,えも言われぬ魅力を感じたのである。しかし,恐竜が好きだと言うと,「女の子なのに珍しい」,「恐竜が好きだなんて意外」,そういった言葉をかけられ,子どもながらに違和感を抱いたことを覚えている。それから20年以上,恐竜が好きだと言い続けてきた。意地を張り続けた結果, 私は今,憧れだった恐竜の研究をしている。

鳥類の祖先をたどると恐竜に行きつくということを聞いたことがある人も多いのではないだろうか。鳥類は, 約1億5千万年前に恐竜の系統から生まれ,現在でも生き残っている。恐竜と鳥の大きな違いの一つは,自由に使える前あしと空を羽ばたく翼の違いだ。恐竜の前あしと鳥類の翼は, 外見上大きく異なっている。しかし, 鳥類の翼は恐竜の前あしが形を変えたものに他ならず,基本的な構成には多くの共通点が見られる。一方,鳥の前あしを翼たらしめる構造もある。その一つが「前翼膜」,翼の前縁に張った膜構造である。羽毛に加えてこの前翼膜があることで,羽ばたいたときに揚力を得ることができる。

進化の中で前翼膜ができ,空へ羽ばたくための扉が開かれたのはいつだったのだろうか?この問いを解くための鍵は,化石記録にある。だが,多くの場合,石に残るのは骨などの硬い組織であり, 化石から軟組織の研究を行うためには工夫が必要だ。そこが, 研究者としての腕の見せどころである。今回は,「化石に保存された姿勢」に注目した。現生の鳥類では, 前翼膜が肩と手首をつないでいるために肘を一定の角度以上に伸ばすことができない。したがって, 前翼膜を持つ動物は, 死後に堆積物中で化石として保存された場合でも, 肘関節が一定の角度を超えることはないと予想される。この予測をもとに化石の姿勢を解析した結果, 前翼膜は, 鳥類よりも前の恐竜の段階ですでにできていたと推定された(2023年2月27日プレスリリース)。

では,進化の中でどのように前翼膜が新たにできたのだろうか?この問いに答えるために, 私はニワトリの卵の中を覗いている。受精卵が細胞分裂や組織の分化を経てからだの形が作られる過程を, 細胞レベル, 遺伝子レベルで観察するのだ。その過程は実に複雑かつ神秘的であり, 見ていていつも感動する。発生初期のニワトリ胚には翼らしき構造はまだ見えず, かまぼこのような形の前あしの芽があるだけだ。それが伸長し, 数日経つと肘が曲がり指が見え始め, 前あしの前縁に前翼膜が現れる。この前翼膜の形成メカニズムを解明できれば,遠い祖先,恐竜の前あしにどんな変化が起きたのかを突き止めることができるに違いない。


A, 鳥類の前翼膜。B, 発生3日目のニワトリの卵の観察。卵に穴を開けると, 卵黄の上に横たわる胚が見える。C, ニワトリの右の翼の発生過程。各写真の左上は, 受精卵を38ºCで温め始めてからの日数。約7日目以降, 前翼膜の形が明瞭になる

研究というのは, まだ誰の目にも触れたことのない真実を誰よりも早く見つけ出すための活動である。もしもあなたが, 人一倍強い知的好奇心を持つ意地っ張りであるならば, そのまま意地を張り続け, ぜひこの活動に加わってほしいと思う。

 

 

理学部ニュース2024年1月号掲載

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