search
search

理学部ニュース

田村 元秀(天文学専攻 教授)

これまで5000個を超える太陽系外惑星(以下,系外惑星)が発見されている。しかし,そのほとんどは間接観測によるものだ。つまり,惑星からの光を写真のように直接に画像としてとらえる直接観測ではなく,惑星の影響を受けている恒星の方を調べる方法に留まる。

2010年ごろにいくつかの系外惑星の直接撮像が成功したが,近年でもその発見例はあまり増えていなかった。それは,(1)明るい恒星の光の影響を抑えるために,地球の大気揺らぎを極限まで直す必要があること,(2)惑星を持つという有望な観測対象を絞りこむ良い手法が無く,多数の天体を観測してやみくもに探す手法がとられていたこと,という2つが主な理由である。

そこで,本研究ではこの従来の探査方法とは異なり,恒星の天球上での位置を精密に測定すること(アストロメトリ)ができるガイア衛星とヒッパルコス衛星のデータを利用して,恒星の天球上での位置をふらつかせる惑星の存在を示唆する間接証拠を先に得ておき,その影響がみられる有望天体のみを直接撮像するという手法をとった。

今回,われわれの国際研究チームは,すばる望遠鏡に搭載した超補償光学系SCExAO(スケックスエーオー)とこのアストロメトリを組み合わせる手法に基づき,新たな系外惑星HIP 99770 bの発見に成功した(図)。超補償光学系とは,大気揺らぎによる星の像への影響をリアルタイムで測定し,表面の形状を変えることが可能な可変形鏡に星の光を反射させて,その波面を整形するシステムである。SCExAOは従来の補償光学系より約10倍の素子数を持ち,あたかもすばる望遠鏡を宇宙に打ち上げたのと同じようなシャープな星像を得ることができる。

  2020年から2021年にかけてすばる望遠鏡で撮像されたHIP 99770 bの(アニメーション,WEB版のみ)画像。★印が恒星,〇で囲まれたのが惑星である。恒星の周りに環状に広がるのは明るい恒星からの光に起因するノイズ(スペックルノイズ)である。惑星の位置が移動するのは惑星の公転運動のためである。
(クレジット:T. Currie/Subaru Telescope, UTSA)

この惑星は,アストロメトリと連携した直接撮像で発見された最初の惑星である。太陽の2倍程度の重さの恒星HIP 99770 Aを,太陽-地球間の距離の17倍離れた軌道を周回している。軌道の形はわずかに楕円のようである。

惑星の質量は木星の質量の約15倍と精密に求められた。通常の直接撮像観測では,画像上で測定された惑星の明るさをモデルと比較することによって惑星質量を推定するため,大きな誤差を伴う。今回は,恒星のふらつきの間接法のデータを加味した力学的質量と,直接撮像からの明るさに基づく質量の両方の情報から,わずか1木星質量程度の誤差で質量を精密に求めることができた。

アストロメトリ法から惑星存在を示す恒星は他にも多数あり,本研究の手法を展開することで,新たな系外惑星の直接撮像による発見が続くだろう。TMT(ティーエムティー:Thirty Meter Telescope)のような口径30m級の次世代望遠鏡と補償光学を用いた将来の観測では,同じ手法で「第二の地球」が撮影されると期待している。

本結果は,T. Currie, et al., Science, 380, 198 (2023) に掲載された。

 

 

(2023年4月14日プレスリリース)

理学部ニュース2023年7月号掲載

 

学部生に伝える研究最前線>