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理学部ニュース

視力100万の瞳でみたブラックホールジェット

 

沖野 大貴(天文学専攻 博士課程3年生)

本間 希樹(国立天文台水沢VLBI観測所 教授/天文学専攻兼任)

 

銀河の中心には太陽質量の100万倍を超える大質量の巨大ブラックホールが存在することが知られている。この中心ブラックホールに降着するガス(プラズマ)の一部はブラックホール周辺を取り巻く磁場との相互作用を介して外側に吹き飛ばされ,ブラックホールから噴出する高速のプラズマ流「ジェット」として観測される。ジェットは噴出口近くから細く絞られながら銀河の遥か外側にまで到達し,銀河の進化や周辺の宇宙環境にまで影響を与える。しかしジェットがどのようにして細く絞り込まれるのか,その様子は未だ明らかになっていない。

この謎を解き明かすべく,我々は極めて明るいクエーサー「3C273」に着目した。クエーサーとは,大量のガスが中心ブラックホールに向かって落ち込み,それによって膨大なエネルギーが放出されることで宇宙で最も明るく輝く天体である。3C273は1960年代に人類が初めて発見したクエーサーとして知られ,明るい中心核から長く伸びるジェットが特徴である。また3C273は我々から見て比較的近傍に位置しており,そのジェットは絶好の観測対象として発見から数十年の間多くの研究者に注目され,盛んに研究が行われてきた。

今回我々は,ジェットの根本から先端部まで詳細にかつ網羅的に調査するために,地理的に離れた電波望遠鏡を使って同時に観測する「超長基線電波干渉計」と呼ばれる手法を用いて3C273ジェットの観測を行った。この観測手法の強みとして,他の観測では実現できない極めて高い解像度が挙げられる。実際に今回達成された最高解像度は約60マイクロ秒角であり,これは視力にして約100万に相当する。我々は欧州,米国,そして南米チリのアルマ電波望遠鏡からなる国際電波観測網を駆使した観測を実施し,世界中の研究者の協力の元で慎重にデータの解析を行った。さらに,観測で得られたデータに対して最新の画像化技術を適用することで,観測データから信頼性の高いジェットの画像を得ることができた。このようにして得られた画像を解析した結果,3C273のジェットの絞り込みが,中心ブラックホールの重力が支配する領域を超えるほど遠方にまで及んでいることを明らかにした。本研究はクエーサー天体のジェットを根本まで最も精密に観測し,その絞り込みの様子を明確に示した初の成果である。ジェットの絞り込み自体は,より暗く活動性の低い天体でもこれまで確認されてきたが,今回我々は,さまざまな種族のブラックホールジェットでその絞り込みが普遍である強い証拠を得ることができた。今後は天体数を増やすなどさらに調査を続け,多様性を含むより深いジェットの理解を目指したい。

  図:本研究で明らかになったクエーサー「3C273」から噴き出すジェットの姿。図中左は3C273の電波画像。根元から数光年にわたって伸びるジェットの最深部の姿が,本研究で初めて明らかになった。右はハッブル望遠鏡によるの可視光線画像。3C273から噴出するジェットが,銀河を越えて数十万光年以上遠方へと到達している様子が分かる。本研究の観測は2017年に行われ,アルマ望遠鏡が初めて参加した国際ミリ波VLBI観測網(GMVA)と欧米の高感度VLBI観測網(HSA)が用いられた

本研究成果は,H. Okino et al., The Astrophysical Journal 940, 65 (2022)に掲載された。

 

(2022年11月22日プレスリリース)

理学部ニュース2023年3月号掲載

 

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