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理学部ニュース

東大の無形文化財? ~御殿下昼サッカーについて~

竹内 春樹(生物科学専攻 教授)

 

1937年建造の旧理学部グラウンド観覧席の外壁の向こうに,御殿下グラウンドがある。都心のど真ん中にハイクオリティなロングパイルの人工芝,率直に言って都内屈指であろう。この御殿下グラウンドは,平日の昼休みの時間帯(12:00−14:00)は自由解放となっており,誰でも予約なしで利用できる。私は学生の頃より,研究活動の合間のストレス発散,身体能力の向上のため週に何度も利用している。学内の複数の研究科を渡り歩いてきた私にとって,このグラウンドとはかれこれ20年以上の付き合いになる。

皆さんは,この昼休みの御殿下グラウンドで行われているミニサッカーをご存じだろうか?安田講堂の時計が12時15分を回るころ,誰かがおもむろにボールを上に蹴り上げることによってこのミニサッカーは始まる。時には20を超える人が集まり,白シャツVS色付きシャツで,午後の仕事が始まるギリギリまでボールを蹴りあっている。このミニサッカーに参加するには,何のことわりもいらない。準備運動を終えたらグラウンドに入り,「ヘイ,パス」,これでゲームに入れる。実力,年齢,性別を問わず誰でもゲームに混ざることができる。ある時は夏休み中の中学生が,ある時は70歳を超えた白髪のおじいさんが混ざってボールを蹴っていることもある。この昼休みのミニサッカーは,私の学部生時代から20年以上(実際には30〜40年は継続している?)もの間,雨の日も,風の日も,(できる日は)雪の日も,途切れることなく平日の毎日行われている。私はこの昼休みの御殿下サッカーを通じて,多くの貴重な出会いを経験した。大学のOB,異なる学科・専攻の教授など,東大に所属する方々はもちろんのこと,プロサッカー選手,例えば北朝鮮代表としてワールドカップに出場した安英学(アンヨンハ)選手や,現在スペインリーグで大活躍中の久保建英選手ともボールを蹴ることができた。また,ただ単に知り合いを増やすだけではなく,この出会いの中で,研究生活を豊かにする種をたくさん拾うことができた。他大学の大学院生とはサッカーと認知機能との関連性についての論文を執筆し,情報理工学系研究科の満渕邦彦教授には,研究室訪問の機会をいただき,BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)をつかった実験を見せていただくなど,実際に花開いたものも多くある。また,化学専攻の合田圭介教授とは研究で顔をあわせるよりずっと前から,昼休みのサッカーを通じて親睦を深めることができていた。天候に左右されず数十年もの間継続して行われ,思いがけない貴重な出会いを生み出す昼休みのサッカーを,私の周りでは「東大の無形文化財」などと評してありがたがっている。

昨今の生命科学研究において,運動が老化,成人病,神経疾患とあらゆる病気に対する有効な予防策であるという報告は枚挙にいとまがない。皆さんも昼休みに御殿下グラウンドに来てみてはいかがだろうか?心身共に健康になるだけでなく,ひょっとすると,人生を豊かにするセレンディピティに出会えるかもしれない。


セレンディピティを生み出す東大御殿下グラウンド

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理学部ニュース2023年3月号掲載

 

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