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理学部ニュース

「ちり」に隠されたブラックホールをとらえる

 

水越 翔一郎(天文学専攻 博士課程1年生)

峰崎 岳夫(天文学教育研究センター 准教授)

 

2022年5月,国際的な電波観測プロジェクトEHT(イベント・ホライズン・テレスコープ)により,われわれの天の川銀河中心にある巨大ブラックホールの姿が捉えられ話題となった。このようにわれわれの身近になり始めた巨大ブラックホールであるが,それがどのように成長してきたのか,銀河の成長とどう関係するのかはまだわかっていない。

活動銀河核は巨大ブラックホールに物質が吸い込まれている最中であり,ブラックホールがまさに成長している現場である。他方,活動銀河核はその空間スケールが銀河の約10桁も小さいにも関わらず銀河全体に匹敵する強烈な光を放つ。すると,この強烈な光が活動銀河核周囲の物質を銀河へと吹き飛ばし,結果的に銀河の環境変化を引き起こす。このように活動銀河核は巨大ブラックホールと銀河の成長を探る上で鍵となる現象なのである。

活動銀河核には,中心のブラックホールを囲むように「ちり」(天文学ではダストと呼ぶ) を含むガスでできた構造が存在し,中心部を覆い隠している。このダスト構造による光の減衰量は見る角度によって変化し,ダスト構造の性質を調査する上で重要な情報である。これまでは主に可視光観測からこの光の減衰量が推定されてきた。しかし,可視光はダストによって効率的に減衰されるためダストに深く隠れた活動銀河核ではその値が推定できなかった。

そこでわれわれは,可視光よりもダストによる減衰を受けにくい近赤外線を用いて光の減衰量を調べる新たな手法を確立した。ダストによる光の減衰量は波長が長いほど小さいため,ダストが多いほど届く光は暗く,「赤く」なる。したがって, 観測された光がどれだけ「赤く」なったかを測定すればダストによる光の減衰量を推定できる。ここで厄介なのが,活動銀河核が存在する銀河内の星が発する放射の混入である。本手法では,活動銀河核に特有の放射の時間変動現象の変光幅に着目することでこれを解決した。

  図:左側:今回測定した光の減衰量と,先行研究のX線観測で得られた視線上のガス量との比較を示した図。青点は1型活動銀河核のデータ,赤点は2型活動銀河核のデータ,灰色の帯は天の川銀河におけるダストによる光の減衰量とガス量との標準的な関係から予想される図上の位置である。右側:ダストによる光の減衰量が多い場合,少ない場合それぞれにおける活動銀河核の見え方の違いを示した想像図

可視光で減衰がほとんどない天体と減衰がある天体(それぞれ1型,2型活動銀河核という)の両方を含む463天体の活動銀河核にこの手法を適用した結果,2型活動銀河核の光の減衰量は幅広い範囲に分布し,最大で約24桁(1????分の1 = 1兆分の1の1兆分の1)も可視光が減衰される天体が存在することを示した。またX線観測から推定された視線上のガス(水素が主成分)の量と光の減衰量との比較から,これらの天体では天の川銀河と比べてダストに対するガスの量が多いことを従来よりも多くの天体について示した。今後,この手法をより多くの天体に適用することで活動銀河核の詳細な構造の理解,活動銀河核と銀河の成長の理解に迫りたいと考えている。

本研究成果はS. Mizukoshi et al., MNRAS, 516, 2876(2022)に掲載された。

 

(2022年9月16日プレスリリース)

理学部ニュース2023年1月号掲載

 

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