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理学部ニュース


釣りと「てんぷら」 


土居 守(天文学教育研究センター教授)


 


子供の頃は毎週のように釣りに行った。餌をつけて糸をたれ,青い海に向かう。じっと待っていると,トントン,とアタリがきて,サッとあわせてググっと引き上げる。魚が見えてくるまで,一体どんな魚だろう,とワクワクする。小学校5年のときだったか,小さなメバルやベラを狙って1mほどの深さしかない岸壁で真下に釣り糸をたれていたら,ガツンとアタリがあり,25cmくらいの鯛が釣れたことがあった。「デカー!」と友達が叫んだのを覚えている。

東京にでてきてから釣りはお休みになり,天体観測に励むようになった。すばる望遠鏡の完成後,宇宙膨張測定のための超新星観測を始めた。超新星は,めったに見つからない。うんと広い範囲の天体写真を撮って,増光している天体を計算機を使って探し,数日後にスペクトル観測を行う。雑音に埋もれていたスペクトルが出てくるまで,どんな天体かわからず,魚釣りと同じワクワク感がある。時には大物にも出くわす。2016年に当時博士課程1年のジャン・ジーアン(Jiang Jian)さんがすばる望遠鏡で見つけた超新星は,炭素と酸素からなる高密度の核をヘリウムガスの薄皮が囲んだ星で,最初薄皮で起きた核爆発がきっかけで星全体が爆発したことがわかった。もともと狙った成果とは違ったが,爆発メカニズムがわかった希な例としてNature本誌で報告することができた。小メバルを狙って釣れた鯛である。

新型コロナ禍の「巣ごもり」が一段落していたこの夏,家族で三浦半島に釣りに行った。海原を見ながら潮風にあたって糸をたれるのは実に気持ちが良かった。もちろん大物をめざしたが,釣れたのは10cmに満たない小魚ばかりだった。身が少ないので妻が素揚げにしたが,薄いピンク色をした小魚が,なんともおいしい。ネットで名前を調べたところ,ホタルジャコだった。私の生まれ育った愛媛県・宇和島ではハランボとよばれ,名物のじゃこ天の主材料である。小魚だったが,これがハランボか,と思わぬ出会いに感動した。思うに,理学系でやっている研究の多くは釣りなのかもしれない。

地元宇和島ではじゃこ天とは呼ばない。「てんぷら」と呼ぶ。2種類あり,色が濃いのが「皮でんぷら」,薄いのが「身でんぷら」だ。本郷でも宇和島のてんぷらを食べることができる。東大病院の地下にある「かどやテラス」で「宇和島じゃこ天うどん」を注文すると,うどんに皮でんぷらが1枚分のってきて,噛むほどにハランボの味がしみだしておいしい。ちなみにかまぼこも入っているが,宇和島のかまぼこはエソのすり身と卵の白身で作られていて薄くても歯ごたえがある。新型コロナで休業していた山上会館地下の「かどや山上亭」も2022年10月からまた営業を始めた。こちらでは皮でんぷら1枚が単品で提供されているが,少し値の張る「宇和島鯛めし豪華膳」を頼むと身でんぷらも一切れ食べられる。ちなみに「かどや食堂」はもともとJR宇和島駅のすぐ近くにあり,小さいころにたまに家族で行った。ただ,楽しみにしていたのはてんぷらや鯛めしではなく,メロンクリームソーダである。

図:皮でんぷら(右)と身でんぷら

 

 

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理学部ニュース2023年1月号掲載