「宇宙は数式でできている」
須藤 靖(物理学専攻 教授)
須藤 靖 著 |
「宇宙は数式でできている」 |
朝日新書(2022年) |
ISBN 978-4022951601 |
宇宙論で博士号を取得後,キャリアを変更し裁判官となったかつての学生がいる。彼に依頼され,4年前に全国の裁判官の方々が集まる研修会で「lawの番人」というタイトルで,こんな話をした。
義務教育では「人々はlaw(法律)を遵守しなくてはならない」と学ぶのに,実際には守らない人がいる。だからこそ,何が違法なのかを判断する法律の番人=裁判官は不可欠だ。これに対して「世界はlaw(法則)にしたがっている」という事実を学校で教えられた記憶はないが,法則に矛盾する「違法」な現象は決して起きない。つまり,物理学者は法則の番人ではなく,法則とは何かを日々考える商売である。
我ながら,裁判官の方々を前に,よくもまあこんな意味不明の内容で2時間も喋ったものだ。しかし,物理屋にとっては自明の「世界は法則にしたがっている」は,必ずしも世間一般には共有されていない。「社会は必ずしも法律にしたがっていない」からだろうか。一方で,シュレーディンガー方程式やアインシュタイン方程式を解いて得られた数学的解は,この世界で必ず実現していると信じて疑ったことがない純朴過ぎる学生も考えものかもしれない。
やや盛り気味の「宇宙は数式でできている」というタイトルの本書は,この両者に向けて,宇宙が法則にしたがっているのみならず,物理法則は微分方程式で書き下せてしまう(らしい)という非自明な不思議さを布教すべく書いてみた。読んだ上で入信しない人も,決して不幸になる心配はない。安心して自分の頭で判断する材料として活用いただければ幸いである。