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理学部ニュース

最新のシミュレーションが解き明かす星団形成

 

藤井 通子(天文学専攻 准教授)

 

 

天文学では,銀河や星などの天体が時間と共に形成したり成長したりする様を「進化」と呼ぶ。天体の進化の時間スケールは人類の歴史より遥かに長いため,私たちの見ている天体の姿は,ある一瞬の静止画像に過ぎない。そのため,さまざまな異なる進化段階の天体を観測し,天体の形成・進化過程について理解をしている。

数値シミュレーションは,コンピュータの中に天体を再現し,天体の進化を直接「観測」する手法である。シミュレーションはコンピュータの発展と共に発達し,その精度は年々向上してきた。星団(数十から数百万個の星が互いの重力で束縛されて集
まっている天体)であれば,星一つ一つを再現したシミュレーションができるようになった。

星団は,分子雲と呼ばれる低温の(主に水素からなる)星間ガスの中で生まれる。分子雲の中の特に密度の高い場所では星間ガスが自己重力によって収縮し,星となる。星が密集して生まれると,星同士が互いの重力によって束縛され,星団となる。星団の星の運動は重力によって支配され,星同士が近付くことによって起こる強い重力相互作用によって,星が高速で星団外へと弾き出されることが知られている。

星一つ一つが再現できるようになると,次に気になるのは,星のこのような運動をどれだけ正確に再現できるかである。星同士が近付くほど,星の運動は高速になり,シミュレーションも難しくなる。これまでの研究では,重力をあえて弱めることでシミュレーションを簡単にしてきた。しかし,近年開発されたアルゴリズムによって,重力を弱める近似なしに計算を行うことができるようになった。


図:上:数値シミュレーションで形成された星団とその周りの星間ガス。青白い点は星を,赤〜緑色の領域は星間ガスを表している。低温のガス(分子雲)を赤色に,高温のガス(電離領域の端)を緑色に色付けしている(画像クレジット:藤井通子,武田隆顕,国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

下:ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したオリオン大星雲(画像クレジット:NASA, ESA, M. Robberto (Space Telescope Science Institute/ESA) and the Hubble Space Telescope Orion Treasury Project Team)

 

星の運動を近似なしに解くシミュレーションを行った結果,星団が形成する過程で,星団の中心付近の分子雲で生まれた新しい星が,周りの星との重力相互作用によって星団の外側へと弾き出される様子が見えてきた。実際のオリオン大星雲では,シミュレーションとは違い,星が動いていく様子を見ることはできないが,星の速度は測ることができる。最新の星の速度データとシミュレーション結果を比較することで,オリオン大星雲でも重力による星の散乱が起こっていることがわかった。

今まで考えられていたよりもダイナミックな星の運動は星団の形成過程にどのような影響を及ぼ しているのだろうか。シミュレーションから見えてきたのは,星団中心から弾き出された星が周囲のガスを電離することによって,オリオン大星雲で見られるような電離領域 ( 図参照 ) を作り出す様子だ。今後は,他の形成途中の星団でも同じことが起こっているのか確かめていく必要がある。また,より多くの星が集まってできている星団の形成過程を同様のシミュレーションで再現していくことで,未だ謎の多い大質量星団の形成過程の解明が期待される。

本研究は M. S. Fujii et al ., Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 43, 514(2022)に掲載された。

 

 

(2022年6月8日プレスリリース)

 

理学部ニュース2022年9月号掲載


 

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