Ca原子を挿入したグラフェンで新奇な超伝導への進化を捉え

秋山 了太(物理学専攻 助教)

長谷川 修司(物理学専攻 教授)

 

グラフェンが今もって熱い。炭素原子だけから構成されるため環境負荷も小さく,またそこでの電子がSiの中に比べ100倍程度も動き易いことから,次世代電子デバイスとして期待されている。また,2018年にMITのチームによって,互いに1.1°回転した二層のグラフェンが特異な超伝導を示すという衝撃的な発表がなされた。しかしわれわれはそれより前に,原子のインターカレーション(挿入)によってグラフェン超伝導を実現していた。

シリコンカーバイドSiC結晶を1,600℃程度で加熱すると,その表面からSi原子だけが蒸発してC原子が残り,それがグラフェン層となる。この方法で二層グラフェンを作って,層間にCaをインターカレートすると超伝導になることを2016年に発表した。しかし,その後,このグラフェンの層数が1層でも超伝導(転移温度が約5 K)になることを発見し,Ca原子は一体どこに入っているのかが大きな疑問として持ち上がった。そこで,原子構造と電子バンドを詳細に解析した結果,図(左)のように1原子層のグラフェンの下のSiC基板と結合した「バッファ層」と呼ばれる炭素の層が,Caインターカレーションによってグラフェンへと変化し合計で二層のグラフェンとなり,さらにその層間にCaが入って規則的に並ぶと超伝導が生じることが分かった。グラフェンはディラックコーンと呼ばれる砂時計型の電子バンドをもち,そのために電子が高速で動ける。さらにCaをインターカレートすると新しい電子バンドが出現するが,この2つの電子バンドが超伝導出現に必須であることが分かった。

  図:(左)グラフェンにCa原子が規則的な周期でインターカレートする様子(右)本研究で観測されたドーム型の超伝導転移温度と常伝導電気伝導度との関係

超伝導の基本理論であるBCS理論によれば,電子密度が高いほど常伝導状態の電気伝導度も超伝導転移温度も高くなるはずである。しかしわれわれの実験結果は図(右)のように「ドーム型」になり,BCS理論と合わない。これは,グラフェンの電子バンドにファンホーブ特異点という特殊な状態が存在するため,カイラルd波という超伝導が生じている可能性を示唆している。これは今まで理論的にしか予測されていなかったが,今回その兆候を初めて実験的に捉えたといえる。

これらの結果は,グラフェンにおけるさらなる豊富な物性発現の可能性を示し,さらにパワー半導体としても注目されるSiC基板上で作製可能であることから超伝導とのハイブリッド新規デバイスへの応用など,大きな夢を我々に提供してくれる。

本研究はH. Toyama et al., ACS Nano 16, 3582(2022)に掲載された。

* BCS理論(Bardeen Cooper Schrieffer:1911年の超伝導現象発見以来,初めて微視的に解明した理論。1957年にジョン・バーディーン(John Bardeen),レオン・ニール・クーパー(Leon Neil Cooper),ジョン・ロバート・シュリーファー(John Robert Schrieffer)の3人によって提唱され,3人の名前の頭文字からBCSと付けられた。

(2022年2月25日プレスリリース)

理学部ニュース2022年7月号掲載


 

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