アイスセブンティーンを探せ! ——後日談

小松 一生(地殻化学実験施設 准教授)

 

2015年4月3日,小柴ホールで「アイスセブンティーンを探せ!」と題して,最先端の氷研究の話題を中高生向けに講演した。実は氷は,温度や圧力を変えることで水分子の並び方が異なる結晶構造を数多く持つことが知られており,冷凍庫でできる通常の氷をice Iとして,その後,ほぼ発見順にice II, ice III…とローマ数字で名前をつけることになっている。2015年当時でice XVI(16)までの存在が知られていたので,冒頭のタイトルで,次に見つかる氷はどのような氷か,最新の研究結果を踏まえて予想する,という形で講演させてもらったのである。

私自身大変驚いているのだが,この講演で話した「予想」が次々と現実のものになっている。まずは,2016年に見つかったice XVII(17)であるが,これは2014年にコンピューターシミュレーションで見出されていた氷の構造と酷似している。計算機上で見つかっている架空の氷は数多く報告されているものの,私の講演の中ではアイスセブンティーンの有力候補として,特にこの2014年に報告された氷に注目して紹介していた。次に,2019年に発見されたice XVIII(18)は,レーザー衝撃圧縮という手法を用いて超高温高圧環境下で発見された氷であるが,私の講演の中でもこの手法について紹介し,このような特殊な環境では未知の氷があるに違いない,という話をしていた。2021年には,幸運なことに,われわれのグループからice XIX(19)を報告することができた。ice XIXは,微量の酸を不純物として加えることで低温高圧下で出現する氷であるが,酸や塩基を不純物として加えることで異なる結晶構造を持つ氷を作るという手法は別の種類の氷でも適用されており,やはり講演の中でも新たな氷を作る手法として紹介していた。


図:室温高圧下で成長したice VII。試料室の直径は0.3 mm,アルコール水溶液を急激に加圧・結晶化させると写真のような氷(ice VII)の樹枝状結晶ができる

Ice XVII以降の新たな氷3つを予想できた,あるいは自ら発見できたというのは,この分野の一研究者として誇りに思っているが,実は氷の発見以上に驚いたことがある。なんと昨年,私の研究室にこの時の講演を聞いていたという学生が入ってきたのである。当の学生曰く,残念ながら私の講演の内容はほとんど覚えていないということで,私の講演がどうというよりは,単に偶然のめぐり合わせなのかもしれない。しかし,一般向けの講演会や出前実験といったアウトリーチというのは,その効果がわかりにくいという声が多い中で,まさかこれほど直接的な「効果」があるとは,僥倖というほかない。

今回のような有形の恩賞は極めて稀であろうが,アウトリーチには研究者自身への無形のメリットが少なくないと感じる。講演会や出前実験の時に,子供たちが目を輝かせながら話を聞いてくれたり,実験をやったりするのを見ていると,自分のやっている研究が本当の意味で認められた気がするのである。この2年間,コロナで対面でのアウトリーチ活動ができない状態が続いてきたが,そろそろまた子供たちと一緒に氷の実験をしたいものだ。

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理学部ニュース2022年7月号掲載

 

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