「最新科学が明かす明和大津波」
後藤 和久(地球惑星科学専攻 教授)
後藤和久・島袋綾野[編]著 |
「「最新科学は明かす明和大津波」 |
南山舎(2020 年)) |
ISBN 978-4-901427-46 |
東日本大震災から 11 年が経った。災害の記憶が薄れつつ ある中,遠い先かもしれない次の巨大地震や津波まで,いかに世代を超えて記憶や記録を伝えていくべきか。難問だが過去に学ぶのも一つの方法である。実は,数百年前の津波災害を今も語り継ぎ,近未来の現実の脅威と認識されている事例が我が国にはある。その代表例が,本書で取り上げる 1771 年明和大津波である。この津波は,沖縄県の石垣島を中心に 30 m もの高さまで遡上し,1 万 2 千人もの人命を奪う巨大災害を引き起こした。明和大津波は,歴史,地質考古学的記録と高度な数値計算技術を組み合わせて実態が解明されるという,世界的にも最先端の文理融合型研究が行われた事例でもある。それに加えて,250 年以上も前に起きた津波災害を地域住民の多くが良く知っており,昭和の時代から始まった慰霊祭は現在でも毎年開催されているなど,災害の伝承という点でも学ぶことが多い。本書は,表紙の津波石と呼ばれる海から打ち上がった巨大なサンゴ岩塊の研究など,科学者たちがどのように過去の津波の実態に迫っていったのかという研究史後藤和久・島袋綾野[編]「最新科学は明かす明和大津波」南山舎(2020 年)ISBN 978-4-901427-46から出発し,地質学,歴史・民族学,考古学,海岸工学等の視点で行われた最新の研究成果をまとめたものである。理学や文学には「未知」の津波を「既知」に変える力がある。これによっ て,初めて防災の出発点に立つことができるようになる。そのことを,本書を通じて実感していただければ幸いである。
関連講義:地球惑星環境学科 層序地質学,堆積学
理学部ニュース2022年5月号掲載