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理学部ニュース

「目的」の共有とデータに基づく「男女共同参画」の提案

佐々田 槙子(数理科学研究科 准教授)

2019年10月に「日本の数学界における男女共同参画の現状と提案」(http://www.math.keio.ac.jp/~bannai/Report_MathGender.pdf)というレポートを,慶應義塾大学の坂内健一教授とともに公表しました。このレポートはこれまで,英語版(http://www.math.keio.ac.jp/~bannai/Report_MathGender_en.pdf)と合わせて,国内外の数学関係者,さらには数学分野以外の方からも,予想を超えた反響をいただいています。

上記のレポート作成のきっかけは,欧州と日本の女性数学者の写真とインタビュー展を駐日欧州連合代表部で開催したことでした。その開会式に合わせて,日本の数学分野における女性研究者の割合などを,ちょっとした参考データとして紹介しようと考えていました。

文部科学省による学校基本調査から該当部分を抜粋したり,各大学に状況を問い合わせたりと地道にデータを集めていく中で,厳しい現実が明らかになりました。この30年ほどの間,数学分野の修士・博士修了者の女性割合はほとんど変わっておらず,さらにこの10年ほどは,わずかに減少傾向にあったのです。各大学や日本数学会などで,「男女共同参画」の取り組みが様々に行われてきたことを考えると,ショッキングな結果でした。なお,全分野および理学全体では,それぞれ博士修了者の女性割合はこの30年ほどで倍増しています。(図)

このデータについてどのように理解すれば良いのだろうか,と考える中で,さらに国立10大学の教員や学会の講演者・受賞者における女性割合のデータを集め,また,自身や周囲の女性研究者たちの経験について振り返ると,色々と思い当たることがありました。その想いは,上記レポートの「はじめに」に凝縮していますので,ぜひご覧ください。

このレポート作成の過程で,日本と諸外国の差を最も感じた点は,女性研究者割合が大きく増えている国では,「男女共同参画の目的」が明確にされており,その実現のためのプロセスもデータ(統計的なものだけでなく,感じ方や経験に対するアンケート調査も含む)に基づいた科学的なものであることです。「男女共同参画の目的」は「一人一人誰もが個人として等しく尊重され,属性によらずに評価や期待を受け,安心して勉強や研究に取り組める環境」を作ることであるというのが,こうした諸外国の学術団体や研究機関の宣言等で明確にされている共通認識です。こうした環境は,健全で活発な研究コミュニティに直結する,全ての研究者にとって重要なものであり,これが実現されることで,結果的に女性研究者割合も増えることがデータによっても示されています。

誰もが安心してさまざまな意見を発することのできる環境を作るために,研究者コミュニティにおける性別の不自然な偏りがなくなることは,欠かせないと思います。ただし,女性研究者が増えれば自動的にこのような環境が実現するわけではなく,かえって女性研究者への逆風やプレッシャーが高まったりといった,本来の「目的」が損なわれていないか丁寧に各現場の実態を注視する必要があります。

目的=ゴールについてまずしっかりと共有し,具体的な実現方法について,さまざまなデータをとって検証し,効果の上がった方法について分野や大学を超えて共有し,さらなる改善を試みる,という科学的な「男女共同参画」のプロセスは,とても研究者向きではないでしょうか?

 

理学部ニュース2022年3月号掲載


 

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