「分子地球化学」
高橋 嘉夫(地球惑星科学専攻 教授)
高橋 嘉夫 編 |
「分子地球化学」 |
名古屋大学出版会(2021年) |
ISBN 978-4-8158-1018-4 |
はやぶさ2計画のように人間の夢をかきたてるニュースには心躍らされる一方で,IPCCにより人間活動が地球温暖化の原因であると断定され,脱炭素社会やSDGsなどのキーワードを聞かない日はない。これら人類の「夢」や「課題」 に関わる対象・現象には,何らかの物質が関与し,その物質は元素からできている。化学は,こうした元素の性質が生み出す原子分子の相互作用を扱う。しかし,地球・環境・惑星 で起きているマクロな現象を,元素の性質や原子分子の相互作用から理解しようとする科学(=地球化学)は,あまり知られていない。その理由の1つは,われわれが目にする岩石, 鉱物,土壌,水,大気は,複雑な組成を持つため,原子分子の相互作用の情報を直接得ることが難しい点にある。しかし,近年の先端的分析法,地球化学モデル,量子化学計算などの発展により,こうした原子分子の相互作用とマクロな現象を,証拠を持って結びつけることが可能になってきた。本書では,このミクロを突き詰めてマクロを理解する分野を分子地球化学と呼び,その基礎から最新の研究までを解説している。「目の前のコップ1杯の水には,ニュートンの脳を作っていた原子が4000個含まれる」という事実が示すように,あらゆる元素は岩石−土壌−水−大気−生物を輪廻し,さまざまに形を変えながらマクロな現象を引き起こし,それらが人間の「夢」や「課題(=地球環境・資源など)」 であったりする。このミクロとマクロとを自在に行き来する面白さや重要性が分子地球化学の醍醐味であり,本書を通じてそれを味わっていただければ幸いである。
(関連講義: 地球惑星環境学入門(教養学部)、地球環境化学・宇宙地球化学(理学部))
理学部ニュース2021年9月号掲載