「複合アニオン化合物の科学」
長谷川 哲也(化学専攻 教授)
陰山洋・荻野拓・長谷川哲也 編 |
「複合アニオン化合物の科学」 |
丸善出版(2021年) |
ISBN 978-4-621-30610-9 |
セラミックスをはじめとして無機機能性材料を目にする機会は多いであろう。その構成元素を見てみると,陽イオン(カチオン)は複数の元素からなるが,陰イオン(アニオン)は一種類(酸化物イオン O2ー,窒化物イオンN3ーなど)という場合がほとんどである。これに対し,複数のアニオンを含む物質を複合アニオン化合物と呼ぶ。同化合物は,合成法が十分に確立していないこともあり,まだ発展途上の分野と言えるが,そのユニークな機能に注目が集まっている。例えば,O2ー,N3ーの両方を含む酸窒化物は,可視光を吸収して水を分解する能力を持ち,O2ー とHー(ヒドリド)を含む化合物では,Hーが高速に移動することから,電池への応用が期待されている。
アニオン化合物の現状を基礎から応用までまとめたのが本書「複合アニオン化合物の科学」である。ただし,本書は決して最新の研究成果の寄せ集めではなく,複合アニオンの研究に携わろうとする者が一から学べる教科書の形をとっている。内容を紹介すると,まず第1章で,複合アニオン化合物の化学的な特徴が述べられている。その後を,合成技術,構造の評価技術,機能と応用,理論計算法に関する章が続くが,上述の化学的な特徴が繰り返し引用され,複合アニオンは他の物質とどこが違うのか,読者が常に意識するよう工夫されている。本書により,複合アニオン化合物の認知度が上がり,さらなる展開へとつながることを期待したい。
理学部ニュース2021年7月号掲載