「感染症の数理モデル」

稲葉 寿(数理科学研究科 教授)


稲葉 寿
培風館(2020年出版)
ISBN 978-4-563-01167-3

2020年2月からの1年間で,私たちの生活は新型コロナパンデミックによって激変してしまった。大学キャンパスは閉鎖され,リモート授業が常態化した。感染症の流行が人類最大の脅威の一つであることは頭でわかっていても,またしても不意を打たれた感がある。

治療法が限られている状況では,人々の間に流行が拡がっていく様子を理解して,人の行動を変え,ワクチンにより免疫性を変えていくことによって流行制御をしていく必要がある。そのために発展してきたのが感染症の数理モデルである。本書は日本で数少ないこの研究分野の専門家に声をかけて,その寄稿をもとに2008年に出版した日本初の感染症数理の専門書である。しばらく版元品切れ状態にあったが,新型コロナの流行モデルに関する一章を加えた増補版として出版することになった。

感染症の数理モデルとして有名になったSIRモデルは,1927年に英国のケルマック (W. O. Kermack) と マッケンドリック (A. G. McKendrick) によって提案された微分方程式モデルである。今回の新型コロナで有名になった基本再生産数による閾値原理や流行曲線という概念がそこに明瞭に現れている。このモデルによって,個体群の非線形相互作用としてはじめて「流行」という現象が理解できるようになったわけであるから,まさに革命的アィディアだった。

今回のパンデミックにおいて,感染症数理モデルが対策ツールとして脚光を浴び,多くの研究を誘発している。本書がその真の姿を理解する手がかりになることを望む。

理学部ニュース2021年5月号掲載

 

理学の本棚>

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加