観測史上最も遠い134億光年かなたの銀河を同定

柏川 伸成(天文学専攻 教授)

 


天文学は地球にひきこもって行う学問である。わたしたち天文学研究者もできることなら,理学系のほかの学問のように対象物に触ったり,育てたり,試したりしてみたい。はやぶさで小惑星に行くことはできたが,数億光年かなたにある超新星まで出張したり,銀河中心にあるブラックホールに入ってみたりすることは難しいので,地球から泣く泣くリモート研究しているのである。有史以来,人類は夜空を仰ぎ,それまでの知識や経験を活かし,この世界の「広さ」や「しくみ」や「なりたち」に想いを馳せていた。でも人間の眼だけでは限界がある。もっと世界を知りたい。約400年前,人類はついに望遠鏡を作り出した。地球からの「おうち観測」の始まりだ。この最初の望遠鏡で,隣家の月には山や谷があることがわかり,2-3軒先の木星には4つの衛星があることがわかった。これは当時の人類の知る世界が大きく広がった画期的な成果であった。もっと世界を知りたい。在宅勤務の効率を上げるためにはリモート機器の充実化が必須である。「おうち観測」の効率を上げるために,人類は今や直径10mの巨大望遠鏡を建造し,CCD(半導体画像センサー),ロボット,AIなどその時代の最先端の技術を天文学に応用してきた。50年前に人類の知る宇宙の果ては,地球からたった50億光年の場所だった。30年前には100億光年を超えた。でもまだまだ宇宙はその先に広がっている…。

最近では GN-z11とよばれる銀河が研究者の間で注目を浴びていた。この銀河はハッブル宇宙望遠鏡によって5年前に発見され,遠方銀河に固有のスペクトルの特徴が見つかったことから,おそらく約134億光年先の銀河だろうと推測されていたが,地球からの正確な距離は測定されていなかった。今回,わたしたちはアメリカのケック望遠鏡に搭載された最新鋭の近赤外線分光器を用いてこのGN-z11を観測し,炭素イオンと酸素イオンが放つ光を検出することに成功した(図)。これらの輝線から得られた赤方偏移は10.957で,この銀河が134億光年かなたにある銀河であることが判明した。これは人類の観測史上最も遠い距離となる。 


下図は宇宙の歴史の概観図。左端のビッグバンから始まり右端の現在に至る。左上図はGN-z11のハッブル望遠鏡で取得された画像。矢印の先にあるのが宇宙で最も遠い銀河GN-z11。右上図は銀河GN-z11からの近赤外線スペクトル。2本の炭素輝線(ピンク)の他に波長2マイクロメートルの酸素輝線も観測された。いずれも2階電離イオン。    

今回の発見で,人類の知る宇宙の果てはまた広がった。しかしこの銀河に炭素と酸素が「見つかってしまった」ということは,これが宇宙で最初に生まれた銀河ではない,ということを示している。なぜなら最初に生まれた銀河はもっとも単純な元素である水素やヘリウムでできており,銀河がかなり成長していなければ炭素や酸素はできないからだ。

人類の「おうち観測」はまだまだ続く。そして近々人類は玄関の扉を開き,地球の外にちょこっと飛び出し,大きな目(JWST)を使ってもっと遠い宇宙を探索する予定である。

本研究は,L. Jiang et al., Nature Astronomy (2020年12月4日版)に掲載された。

(2020 年12 月16 日UTokyo FOCUS)

理学部ニュース2021年3月号掲載



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