奥出絃太氏が第11回日本学術振興会育志賞を受賞
深津 武馬(産業技術総合研究所(生物科学専攻 兼任))
奥出 絃太氏
(生物科学専攻 博士課程3年生)
生物科学専攻博士課程3年の奥出絃太さんが「トンボの変態・体色形成メカニズムの解明」により第11回(2020年度) 日本学術振興会育志賞を受賞されました。
トンボは誰もがよく知っている身近な昆虫です。生物学的には,もっとも祖先的な有翅 (ゆうし)昆虫で,変態の進化を考えるうえで重要です。視覚に高度に依存しており,鮮やかな色彩,紋様,多型を示し,興味深い生物現象の宝庫です。しかし長年にわたり,トンボを対象とした分子レベルの研究はほぼ皆無でした。しかし奥出さんはこの状況を一変させました。トンボ実験室飼育系を確立し,その発生過程を詳細かつ広範に記載し,さらに遺伝子発現解析や機能阻害実験等の技術開発に取り組むことにより,トンボを現代生物学の俎上に載せ,分子レベルの理解を可能にしました。これら独自に構築した研究基盤を駆使して,トンボでは未知であった変態関連遺伝子の解明より不完全変態昆虫における変態機構の進化に新たな光を当て,さらに多彩な体色について,色素の化学分析から色素合成関連遺伝子群の解明,さらには色彩制御に関わる転写因子の同定にいたる新知見をもたらしました。奥出さんのトンボへの愛と強靭な研究意欲がなければ成し遂げられなかったであろう,独創性に溢れた研究成果です。
このような奥出さんの大学院博士課程における顕著な研究成果および将来性は,日本学術振興会育志賞に誠にふさわしいものです。おめでとうございます。
理学部ニュース2021年3月号掲載