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理学部ニュース

初期宇宙の謎に挑む国際共同研究

郡司 卓(原子核科学研究センター 准教授)

米国グーグル創業者らが出資するブレークスルー財団主催の「ブレークスルー賞」が2025年4月5日に発表され,基礎物理学部門でCERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の4つの国際共同実験が共同受賞した。東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター(CNS)は,このうちALICE実験に参加している。

ALICE実験は40カ国163機関1894名で構成される大型国際共同実験で,「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」という人類史上最極限の物質状態を探究している。これはビッグバン直後の宇宙初期に存在した物質相で,約1兆度の超高温・高密度状態において,通常は陽子や中性子に閉じ込められているクォークとグルーオンが解放された特異な状態である。

CNSは2006年から参画し,主飛跡検出器と電子同定用検出器の開発・建設・運用を主導している。これらの最先端検出技術により,重クォーク,クォーコニウム,電子対の精密測定を実現し,QGPの熱力学的・輸送特性の解明に貢献している。今後は,実験高度化と従前の50倍以上の統計データにより,QGPの精密な理解が飛躍的に進展する見込みである。この研究は量子色力学の極限状態検証という基礎物理学の根幹に関わる世界的に重要な探究である。同時に,CNSの学生や若手研究者にとって世界の研究者と切磋琢磨する貴重な国際環境となり,次世代物理学者の育成拠点としても機能している。

現地で世界の研究者とともに実験に参加するCNS学生
LHCでの鉛–鉛原子核衝突を捉えたALICE実験の様子