search
search

理学部ニュース

理学部ニュース

理学部ニュース2025年5月号掲載

理学エッセイ>

化石とヴィンテージデニム 

平沢 達矢(地球惑星科学専攻 准教授)

 12歳のとき,科学者になろうと決めた。当時は,映画「ジュラシック・パーク(1993)の影響でたくさんの恐竜研究に関する本が出版された時期で,そのおもしろさとロマンにノックアウトされてしまったのである。そして,それを仕事にする生き方があるということもそういった本で知ってしまった。以来,将来のフィールドワークに向けて体を鍛えようと陸上部に入り毎日トレーニングし,頭も鍛えて科学者になった。BLANKEY JET CITYの曲に「俺の血はそいつでできてる/12歳の細胞に流れ込んだまま/まだ抜けきれちゃいない」という歌詞があるが,まさにそれは私のことだ。

同じように,12歳ごろに出会って,まだ抜けきれちゃいないものがある。それは服,それもワークウェアやミリタリークロージングといった特定のジャンルの古着の探究である。

科学者になることを決めた12歳ごろから,さまざまな科学的知識や思考法を身につけようと毎日のように本屋に寄って本を選んでいたのだが,その頃はちょうどモテたい時期でもあったため,雑誌コーナーのファッション誌やカルチャー誌も片っ端からチェックしていた。当時の流行は,ヴィンテージデニムを中心とした古着ファッションであり,ジーンズの年代の見分け方をはじめとしたディテール解説が雑誌誌面の大部分を占めることも少なくなかった。これが私の探究心に火をつけた。そういった知識を吸収し,自分の中で体系化するのが楽しかったのである。実際,年代もののヴィンテージ古着の歴史探究は,化石から進化の歴史を解き明かしていくこととよく似ている。

ジーンズなどのワークウェアや戦場で使われることを前提として作られたミリタリークロージングは丈夫にできており,年代ものの古着でも手荒に扱っても問題ないことが多い。むしろ,着古して色落ちしたり傷ついたりしたもののほうが,迫力が出て雰囲気が良くなる。一方,恐竜研究に関する本を開いてみると,化石発掘調査をしている科学者たちはジーンズなどのワークウェア姿だ。古い写真で,科学者たちは,今ではヴィンテージとなっているワークウェアを着ている。

これだ。のめり込んだ2つの探究はきれいに両立できる。このことに気づいてから,ラフで丈夫な服に身を包んで研究をするというライフスタイルに憧れるようになった。それは,スーツやきちんとした高級な服を着る仕事や生活を選ばないという決意の象徴でもあった。こうして,理想とする科学者像に近づくための一部として,服の探究を続けることとなった。

服になんかに気を取られずに,研究に集中すべきだと言う人もいるだろう。研究や創作を仕事とする人の中には,いつも同じ服を着るという習慣を持つApple社のスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)のような例もよく知られている。

本来,ワークウェアはそのように着るもののはずだ。だが,趣味として服の探究を続けていると,困ったことにいろいろ着てみたくなってきてしまうのである。時代に合わせて着方もアレンジしたい。考える時間はちょっともったいない気もするが,それで気分を変えられるならば,研究にとって良い効果もあるはず,そう自分に言い聞かせている。

年代もののリーバイ・ストラウス社製ジーンズ。この3 本はどれ も20 年以上前に手に入れたものだが,未だに飽きることはない

理学部ニュースではエッセイの原稿を集しています。自薦他薦を問わず,ふるってご投稿ください。特に,学部生・大学院生の投稿を歓迎します。ただし,掲載の可否につきましては,広報誌編集委員会に一任させていただきます。ご投稿は rigaku-news[@]adm.s.u-tokyo.ac.jp まで。