「超伝導の物理学」
青木 秀夫(東京大学名誉教授)

青木秀夫 著 「超伝導の物理学」 |
裳華房(2024年) |
超伝導というと,一般的には抵抗無しに電流が流れるイメージであろうが,実は物理学上の概念として斬新な状態である。南部陽一郎氏が「対称性の自発的破れ」というノーベル賞につながった概念に至ったのは超伝導から出発した賜物である。本書は,著者が2009 年に『超伝導入門』を刊行してから本分野で様々な発展があったことを踏まえ,タイトルも一新して大幅に増補・改訂した教科書であり,例えば固体物理学の授業の一助となろう。
超伝導での一つの革命は1980 年代に発見された高温超伝導で,超伝導が発生する機構が従来とは全く異なる(電子間のクーロン斥力相互作用が起源),という概念的な面白さが肝要となる。本書では,従来型超伝導に対するスタンダードな理論から出発し,この15 年間の革新的な展開として,銅系に続く鉄化合物,ニッケル化合物における高温超伝導を詳説する。さらに,水素系での室温に近い超伝導やグラフェン超伝導なども輩出し,これらを物質の特徴から理論的描像まで説いた。目新しい展開は,ヒッグス・モードを典型とする非平衡における超伝導である。ヒッグスというと,素粒子としては加速器で2012 年に発見されたが,超伝導体でもそれに似た励起モードが南部理論と密接に関連して存在し,最近ホットである。また,教室での講義でいえば雑談に当たる「コラム」欄も充実させた。理学の研究は「上に行くほど頂上がどんどん高く伸びる山に登っているようなもの」と常々思うが,超伝導についても本書がこれを体験するきっかけになればとおもう。