
私は,本学修士課程の頃から学生団体に所属し科学コミュニケーション活動を続けてきました。サイエンスカフェや実験講座,街中での展示などさまざまな企画に参加してきました。その1つとして,仲間と一緒に空きアパート1棟をDIYで改修工事をし,博士1年の2018年冬に「手作り科学館 Exedra」オープンさせました。
ボランティアとして活動を続けてきましたが,2020年に本学の地球惑星科学専攻博士課程を修了後,同年,新たに一般社団法人を設立しました。現在は,お仕事として手作り科学館で働いています。来館者の方々に展示や実験・体験のご案内,講座の講師のほか,「研究部」という小中学生のジュニア研究者を育てる教室を2022年からスタートさせ,探求カリキュラムの作成や子どもたちの指導も行っています。また,企業の方々と一緒にお仕事をする機会もあります。
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研究部で子どもたちと研究に取り組む様子。
「先輩研究者」として指導しつつ,一緒に探求を楽しんでいます
幼い頃,両親が畑やキャンプに連れて行ってくれたり,近所の公園に星を見に出かけたりしたことがきっかけで私は自然科学に興味を持つようになりました。小学生になると,家族で県内の天文台に通っていました。天文学者の方々の最先端の宇宙のお話を聞くうちに,研究者に憧れを抱くようになりました。
大学院では,大気中の微粒子(エアロゾル)の化学種分析から気候への影響を考察するテーマに取り組んでいました。野外での試料採取,日々の実験や議論,学外の大型実験施設での実験,国内外での学会発表など,多くの学びと経験を得た充実した日々でした。研究も好きだった一方,先述の課外活動を通じて,研究の成果を誰かに話したり,科学に興味関心を持ってもらう場を作ったりすることの方が,私には合っているかもしれないと感じるようになりました。研究者になる以外にも研究や科学への関わり方もあると考え,悩んだ末に今の仕事を選びました。
私たちの法人では,「科学の現場をみせる」を理念の1つとして掲げています。「みせる」には見せると魅せるの2つの意味があります。現役研究者や大学院生の研究を紹介するイベントの開催や研究経験のあるスタッフと直接おしゃべりができる場づくり,「研究部」での子どもたちの研究サポートなど,可能な限りリアルな科学や研究の現場を見せて,その魅力に触れてもらう機会を増やすことで,基礎研究や最先端の科学が理解され,応援される社会をつくることを目指しています。
大学院で身に着けた知識はもちろん,研究の進め方や実験・観察の方法,客観的に物事を捉えて論理的に考える力は今の仕事においても大いに役立っています。課題を発見し,方法を考え検証し,結果から考察するという問題解決の力はあらゆる職種でも役立つのではないでしょうか。
知識や経験は自らの人生を切り開く武器のようなものだと考えています。学生時代に学び得たものは,この先どんな進路を選んでも必ず何らかの形で自身を助けてくれるはずです。自ら選んだ道の先で,持っている武器を「どう生かすか」が大切だと思います。