「層とホモロジー代数」
志甫 淳(数理科学研究科/数学科兼担 教授)

志甫 淳 著 「層とホモロジー代数」 |
共立出版(2016年) |
異なる自然数n, mに対してn次元座標空間とm次元座標空間が(線型空間としてではなく)位相空間として同じでないことを直接示すのは難しいが,1点を取り除いた空間のホモロジー群という代数的対象を比べると容易にわかる。
このように,難しい対象からホモロジー群などの代数的対象をうまく定義して,それを調べることにより元の対象の研究を行うことは,数学の多くの分野で行われている。上記は位相幾何学における例であったが,微分幾何学においてはド・ラームコホモロジーが,整数論においてはガロアコホモロジーが用いられる。これらの(コ)ホモロジー群の定義の仕方の代数的部分を抽象化させてまとめたものがホモロジー代数である。また,関数の貼り合わせの性質を抽象化した代数的対象が層であり,コホモロジー理論たちはしばしば層を係数とするコホモロジー群として捉えられる。
「層とホモロジー代数」はホモロジー代数と層について述べた本であり,2年に1度開講される数学科4年生・大学院生向け講義での経験をもとにして書いた。予備知識があまり必要でないように,また基本的事項のみを述べるよう努めた。近年,ホモロジー代数はホモトピー代数へと昇華しており,本書の内容は今や古典的かもしれないが,本格的な数学の理解には欠かせないものである。教養学部前期課程より先の数学の1つとして,数学や数学を本格的に使う諸分野への進学を考える学生にお勧めしたい。