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理学部ニュース

 

私は理学系研究科物理学専攻を修了後,NTT研究所に入社しました。その後,NTTのアメリカ拠点であるNTT Research, Inc.に異動し,現在はResearch Scientistとしてハーバード大学の研究室で働いています。

修士課程では,素粒子実験の研究室に所属し,CERNのデータ解析に取り組んでいました。しかし,「自分だけの研究テーマを追求したい」という思いと,「将来的に稼ぎたい」という目標から機械学習分野での研究職を志望するようになりました。自由度の高い研究環境に魅力を感じ,NTT研究所に入社しました。入社後は,機械学習・データマイニング分野の技術開発と研究に取り組みました。特に研究に魅力を感じ,入社4年目以降は研究を中心とした業務にシフトしました。入社5年を経ても科学への情熱は消えることなく,機械学習と科学の境界領域に興味を持つようになり,「AI for Science」に関するテーマで論文を書くようになりました。このタイミングで京都大学の博士課程に進学し,業務と並行して博士号を取得しました。働きながらの博士課程は大変だと思われがちですが,業務中に書いた論文で学位を取ったため,負担は想像より大きくありませんでした。


旅行先のグランドキャニオンにて

もともと,この分野の本場であるアメリカで研究したいという強い思いがありました。そのため,博士号取得後,NTTのアメリカにおけるAI研究拠点への異動を上司に相談しました。快く承諾をもらい,2023年にアメリカのNTT Research に異動しました。現在は,ハーバード大学との合同研究プログラムである「CBS-NTT Physics of Intelligence Program」の一環として,研究に取り組んでいます。日本でのテーマは「AI for Science」でしたが,アメリカでは「Science of AI」に転じました。現在は,AIモデル(言語モデルや画像生成モデル)の振る舞いの科学的な理解をテーマに研究をしています。特に,モデルのサイズを拡大することで性能が飛躍的に向上する「Emergence(エマージェンス)」現象の研究に注力しています。この現象はAI応用の鍵となる重要なテーマですが,性能向上のタイミングやその原因はまだ解明されていません。この課題に対し,現象の本質を捉えたシンプルな人工タスクを設計し,小規模なAIモデルを使った学習やプロンプティングを通じて,その性能や背後にあるメカニズムを探っています。

AIモデルを科学的に理解することは,AIの制御や社会との共生を目指す現代において非常に重要で,その社会的意義は大きいと考えています。シンプルな人工タスクの設計は物理学的なアプローチであり,学生時代に取り組んだ実験物理の経験が活かされています。また,AIモデルを未知の知的生命体と見立てて実験を進めることは,科学的探求として非常に興味深く,私の個人的な興味と合っているためとても楽しく研究に取り組んでいます。

好奇心を原動力に進路を選び続けた結果,現在の充実した仕事に繋がっていると感じています。この経験が皆様の参考になれば幸いです。