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理学部ニュース

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理学部ニュース2025年1月号掲載

学部生に伝える研究最前線>

20億年前の微生物から生命の起源に迫る

鈴木 庸平(地球惑星科学専攻 准教授)

 

20億年前の地層から,生きているとみられる微生物を採集することに成功し,
これまでの記録の1億年前を大幅に更新した。
この微生物が20億年前から岩石内に封じ込められ,ほとんど進化していないのであれば,
太古の生き物の遺伝子を調べることが可能になる。
その遺伝子情報から, 「生命の起源」の謎を解く糸口が得られると期待される。

どのように生命が誕生したのか?身近であり壮大でもある「生命の起源」というテーマは,主に3つのアプローチによって研究されている。

1つ目は地球の古い時代の地層に残る生命の痕跡を探すというアプローチで,40億年前の地層中にその痕跡が見つかっている。そして,2つ目は「化学進化」からのアプローチ。「化学進化」とは,簡単な化学物質から次第にアミノ酸やタンパク質などの複雑な有機物が形成され,生命が出現するまでの過程を指す。有名な研究として知られているのが「ミラーの実験」である。3つ目は「生物進化」からのアプローチ。現存する生き物から進化を遡って,共通祖先にたどりつこうというアプローチである。10年前は1つの遺伝子の情報からしか作れなかった全生命の系統樹が,現在では100を超える遺伝子の情報から作成できる。

最新の全生命の系統樹に基づくと,地下深部に生息する微生物が共通祖先に近縁であることが判明した。また,この微生物は世界中の地下深部に生息し,地球規模で比較してもゲノムがほとんど同じで,1億年スケールで進化してないと考えられている。従って,地下深部は,地上とは異なり生物が進化しない場所として認識され始めたと共に,共通祖先に近縁な原始的な微生物の生息場所としても重要視されている。

金属鉱山の中には,形成年代が25億年より古い地層に含まれる鉱石を,地下2キロメートルを超える坑道からから採掘しているところがある。カナダや南アフリカの鉱山の坑道から採取された地下水は,10億年以上に渡り深い地層に封じ込められていたことが報告されている。この事実は,10億年スケールで生き物どころか水も出入りできない超閉鎖的空間の存在を裏付けている。

そこで私たちのチームが目をつけたのが,20億年前に形成された南アフリカのプラチナを大量に含む地層で,ブッシュフェルト複合岩体と呼ばれる。生命誕生との関連が重要視されるマントル物質と類似した超塩基性岩(鉄とマグネシウムに富むカンラン石や輝石が主成分)から構成されるが,地上から掘削して得られた岩石を調べるため,地上の生き物が岩石内部に侵入する汚染について慎重に調べなければならなかった。また,目では見えないほど小さな生き物を岩石内で可視化する技術を開発する必要もあった。この2つの難関を, 世界に先駆けて突破することに成功した。

プラチナ鉱山内の掘削現場での作業の様子(左),微生物が発見された岩石コアの亀裂と密集する微生物の蛍光顕微鏡像(右)

そこで明らかになったのが,20億年前の岩石内部で満ち溢れる生命の姿であった。微生物は岩石の隙間に密集し,その隙間は粘土と呼ばれる物質で詰まっている。これは汚染となる微生物が入り込めないこと,裏返すと隙間に住む微生物も外に移動できないことを物語っている。

今後の研究のポイントは,ゲノム解読からこの地層に生息する微生物が共通祖先にどれだけ近縁で進化していないかを明らかにすることにある。「生物進化」というアプローチで「生命の起源」の解明に迫ることが期待される。

本研究成果は, Y. Suzuki et al., Microbial Ecology., 87, 116 (2024)に掲載された。

 

(2024年10月2日プレスリリース)