理学部ニュース
理学部ニュース2024年11月号掲載
理学の本棚
「宇宙になぜ、生命があるのか」
戸谷 友則(天文学専攻 教授)

戸谷 友則 著 「宇宙になぜ、生命があるのか」 |
講談社ブルーバックス(2023年) |
生命の起源,これは理学の中でも究極にして至高,難問中の難問といえるのではないだろうか。生命が存在しなかった原始地球(あるいは宇宙のどこか)で,物理法則に従って化学反応が進み,突然,自己複製して進化する「生命」が現れた。物理法則に従って原子分子が無味乾燥に反応している世界から,生命という不思議なモノが存在する世界への相転移である。必然的に,生命の起源を研究するには物理と生物の双方と向き合わなければならないが,これが難しい。大学入試での理科二科目選択制の弊害もあり,理学部の多くの人も,物理系の人は生物に疎く,逆もまた真なりという状況である。
筆者もまた,物理や天文の世界に身をおいて,長年,生命には疎かった。しかし宇宙のすべてを理解するには,ど うして生命というわけのわからないものが宇宙に現れたのか,という問題から逃げるわけにもいかない。そこで勉強を始めて,インフレーション宇宙の観点から,生命の起源について新しいアイデアを思いついて論文を書いたのが 2020年であった。その過程で学んだ生命の起源に関するさまざまな ことがとても面白かったので,一般向けの本としてまとめたのが本書である。
筆者は生命科学については素人である。本書の内容も,生命の専門家からは眉を顰められる 箇所もあるかもしれない。それでも,宇宙を研究対象とする物理系の人間が生命の起源を考えるとこうなるのか,と寛容に面白く読んでいただければ幸いである。