「はやぶさ2」は何を待ち帰ったのか
橘 省吾(宇宙惑星科学機構 教授)

橘 省吾 著 「はやぶさ2」は何を持ち帰ったのか |
岩波書店(2024年) |
小惑星リュウグウを探査した「はやぶさ2」は2020年末に地球にサンプルを届けた。その後のサンプル分析で,リュウグウをつくる物質の正体が次々と明らかになっていった。筆者は「はやぶさ2」計画に立ち上げ段階から参加し,探査の科学目標の設定から,サンプル採取装置の開発,サンプル分析まで関わり,続々と得られる新しい分析事実に,探査が成功して本当によかったとほっとしている。サンプルは将来にわたり保管され,未来の研究者による分析を待っている。
本書は,「はやぶさ2」がなぜ小惑星リュウグウをめざしたのか,リュウグウサンプルからなにがわかってきたのかについて,紹介した一冊である。太陽系や地球の成り立ちを理解することが,地球惑星科学の目標のひとつであるが,人間の時空間スケールをはるかに超えた自然の営みの理解には,その営みが記録された「モノ」を調べることが基本となる。多くの場合,その記録は岩石に残る。岩石をつくる鉱物の種類や化学組成,形は,外界の物理化学条件を反映し,太陽系史にわたり,そのままでいることがあるからだ。本書では,リュウグウの岩石にさまざまに織り込まれた情報をどのように引き出すのか,なぜその情報から,リュウグウや太陽系の歴史を推理できるのか,といったことまで伝えることを試みた。三蔵法師一行の冒険譚ではなく,天竺から持ち帰った経典の方が気になるという方がおられたら,手にとっていただければと思う。